かつては、トレーニング機器の故障が日常茶飯事だった。修理予算が下りず、壊れたまま放置された器具や、使用中止になった設備、隊員たちが自費で買い足した器材まであったという。老朽化したマシンはケガや事故のリスクも高く、「安全に身体を鍛える」ことすらままならない時代があった。
そんな過去とは対照的に、今は自衛隊の進化を象徴するようなトレーニング環境が整いつつある。その一例が、今回訪れた最新のトレーニングルームだ。
室内には、WOODWAYの自走式トレッドミルやトラップバー(Hex Bar)をはじめ、プロアスリートのジムに引けを取らない高度な器具が整然と並ぶ。エアロバイク、可変式ベンチ、本格的なサンドバッグまで完備されており、筋力・持久力・打撃の各種トレーニングに対応する。
しかも、これらがすべて無料、予約不要、好きな時間に利用できるという、まさにこれまでと比較して夢のような環境だ。
サンドバッグを眺めていた私が「これは女性も使うんですか?」と尋ねると、近くにいた細身の女性自衛官が「はいっ」と応じ、すっとサンドバッグの前に立った。拳を突き出すたびに「バシュッ、バシュッ」という芯のある澄んだ音が部屋に響く。そのフォームの美しさに思わずもう一度お願いしたほどだ。拳が一点に吸い込まれるような鋭い音が、印象的だった。
ハード面の改善に加え、制度面でも安全性と使いやすさへの見直しが進んでいる。器具の修繕や更新には部隊経費がきちんと充てられ、以前のように壊れたまま放置されることはなくなったという。
「せっかく身体を鍛えるなら、安全な設備で思い切りやりたい」──それは、誰もが抱く自然な願いである。特に自衛隊員にとってはそれが任務遂行能力や生存率に直結する現実なのだ。
トレーニング環境の改善は、単なる福利厚生の充実ではない。これは、自衛隊という組織が、継続的にパフォーマンスを発揮できる基盤整備を本格的に始めた証である。こうした“地味だけれど確実な改善”の積み重ねが、組織への信頼と持続可能性を育てていく。
長年、自衛官の処遇改善に関わってきた立場として、こうした変化の片鱗を実際にこの目で見られたことは、心から嬉しい体験だった。
著者略歴

国防ジャーナリスト。関西外国語大学卒業後、広告代理店勤務を経て、フリーライターとして活動を開始。 2009年、政治や時事問題を解説するブログ「キラキラ星のブログ(【月夜のぴよこ】)」を開設し注目を集める。14年からは自衛隊の待遇問題を考える「自衛官守る会」を主宰。月刊『Hanada』、月刊『正論』、夕刊フジ、日刊SPA!などに寄稿。19年刊行の著書『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)は国会でも話題に。2022年10月、公益財団法人アパ日本再興財団主催・第15回「真の近現代史観」懸賞論文で最優秀藤誠志賞を受賞!産経新聞コラム「新聞に喝!」を担当。2024年12月、『こんなにひどい自衛隊生活』(飛鳥新社)を刊行。