共に暮らすための「知恵」として
当然ながら、現代では「我々はみんな天皇の子供であり……」などと言っても、日本人であっても一部の人以外は「心に響かない」であろう。
また、移民に対して一方的に「あとから来たのだから平身低頭し、日本に住むものとしてふさわしい言語や儀礼を身に着けるべきだ」と日本人側が押し付けても、それはそれで摩擦が生じかねない。
あらゆる条件が違うため、言葉を慎重に選ぶ必要があるが、異なる背景を持つ人々が一緒に暮らす上では、ともに尊重できるような共通項や価値観を提示することも一つの手なのだろう。
リベラル派に言わせれば「『人権』や『多文化共生』があるじゃないか」ということになるだろうが、より「土着的な何か」を見つけていくこと「も」必要なのではないか。
国境の島の豊かさ
八重山に住む台湾からの移住者たちは、他の地域での中華圏からの移住者のようないわゆる「華僑」ではなく、土着化、つまり台湾にルーツはありながらも日本国籍を持つ、日本人と見分けがつかない存在へとなっていったという。しかも、時間をかけて自ら進んでそうなっていった。
自身のルーツを重んじ、廟の設置のようにその発露を許す地元民の価値観が根付いてもいる。様々な葛藤を乗り越えることで、内に秘めてきた台湾への思いを廟という見える形に表した。これが本書のタイトル「心の中の台湾を手作りする」につながる。
土着化にはどうしたって時間がかかる。台湾系移住民と地元民の婚姻もそれを手伝う。摩擦と熟成の時間が必要なのだ。特に移住一世は苦労し、受け入れる地元民としても葛藤はあっただろうが、その上に成り立つ国境の島の豊かさが、一世紀を経てここに体現されているとも感じる。
先述の通り台湾は日本の一部だった時代があり、その時点で「同化」が行われていたのも確かで、極めて特異なケースではあろう。
だが、(著者にそのような意図はないかもしれないので我田引水ではあるが)それでも本書からは今、日本でもまさに顕在化しつつある「移民」との間の摩擦を長期的視点で解消するうえで必要なものを多角的に得られるのではないだろうか。
過去の経験の中から、普遍的なものを抽出し、現代式に更新しながらとことん使って試してみる――それができるのは、後の世に生まれたものの特権でもある。
学術的な内容ではあるものの、当時の台湾系移住民、地元民の葛藤や生活が目に浮かぶようで、面白く読める。しかも新書サイズで100ページ弱(しかも税抜き700円)なので、ぜひ手に取ってもらいたい。

ライター・編集者。1980年埼玉県生まれ。月刊『WiLL』、月刊『Hanada』編集部を経てフリー。雑誌、ウェブでインタビュー記事などの取材・執筆のほか、書籍の編集・構成などを手掛ける。