【読書亡羊】「台湾系移住民」が経験した古くて新しい問題  三尾裕子『心の中の台湾を手作りする』(慶応義塾大学三田哲学会叢書)|梶原麻衣子

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その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


「台湾人と云えども陛下の赤子」

では台湾の人々はどのようにして「土着化」していったのだろうか。

パイン工場が破壊される前の1939年、地元民との間でトラブルが起きた際の林発の言葉が引用されている。

台湾人と云えども、陛下の赤子であり、今や日本国民南進政策により、台南を南進基地として、本土はもちろん、当八重山からも数多くの人が行って居り、台湾人、沖縄人とも同胞である。国民が一体となって、外敵に当たるべきこの時に、当八重山に於いて、多数の民衆が善悪を問わず、紛争することは国内のみならず、世界中の人々から笑いものにされる。

当時は、日本国民を一等国民として、沖縄県民が二等国民、台湾人は三等国民の地位に置かれていた。石垣の地元民も、台湾人に対するわだかまりはあったようだ。

林発が自身を本当に「陛下の赤子」と思っていたかはもちろん分からないし、融和を訴える方便として持ち出したのかもしれない。だが、「相手に響く物言いで、相手の価値観に寄り添って融和を図る」ことを試みたわけである。

それでも台湾人に対する暴力は減らなかったというから、移住者たちには忸怩たる思いもあっただろう。だが、さらに林発は台友会を結成し、「天皇の赤子としてふさわしい言語や儀礼を身に着けることを会則として盛り込んだ」という。

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