膳場貴子氏:今回は告発された側、つまり知事本人が独立した第三者の調査を待たずに真実ではないと結論付けていたというわけですけれども、これ公益通報のあり方として課題が残ると思うのですが高橋さん、どうご覧になりますか。
高橋純子氏:まさにおっしゃる通りで、告発された本人が真実相当性を言うこと自体が、根本的におかしい。第三者の意見を聞かずにそれをスルーして懲戒処分を下す。だから専門家の多くは公益通報者保護法違反だという声を上げているということをあらためて指摘しておかなければいけない。
兵庫県の西播磨県民局長は、県警・議員・メディアに対して、斎藤元彦知事の告発文書を匿名で送付しました。これは基本的に「外部通報」にあたります。外部通報の場合には、その内容に信ずるに足りる理由があることが要件となり、通報者には立証責任が求められることになります。
しかしながら、この外部通報に真実相当性は認められず、このとき通報を受けた兵庫県警も公益通報として受理していません。ちなみに、「内部通報」の場合には、文書の真実相当性にかかわらず通報者は保護されますが、クーデターなどの目的で故意に虚偽の事実を流している場合には問題視されることになります。
この外部通報にはデマが含まれていることが指摘されており、その場合には県政に対する誹謗中傷にあたります。また、国民全体の奉仕者であることが求められる公務員が業務時間中にデマを含んだ文書を作って外部に流布する行為は明らかに不適切です。
したがって、これが公益通報者保護法違反であると一方的に断じることには無理があります。
高橋純子氏:それにまつわって一人の方が亡くなっている。斎藤氏が知事選に再選されたからといって、その重みは消えない。それは関係なく問題として残っている。これから百条委員会が報告書を取りまとめるということなので、まずはそれに注視した上で、やはり公益通報者保護法違反ではないのかという声を私たちは上げ続けていかなければいけない。
職員の死の責任を立証することなく知事に負わせて要求する行為は、典型的な【感情的恐喝 emotional blackmail】であり、暴力的な人権侵害です。
何よりも危険なのは、このような感情的恐喝は、自死にインセンティヴを与えることです。自死を真実の立証行為であるかのように社会が認識すれば、「死をもって抗議する」といった不合理な手段が乱発されかねません。