赤旗が一切触れない事件の本質
だが、調査が公にされれば、スパイも身を潜め証拠の隠滅を図るだろう。われわれの知らないところで調査が行われていることを願いたい。
この点では、内部情報のリークを受ける共産党の側の動きにも注目しておきたい。
赤旗は3月4日、「自衛隊 いびつな“犯人探し”--情報“漏えい”えん罪国賠訴訟」という記事を社会面に大きく掲載した。
2015年9月2日の参院安保法制特別委員会で共産党の仁比聡平議員が暴露した防衛省の統幕文書(統合幕僚長の訪米時の会談記録)について、情報漏洩の容疑をかけられた現職自衛官A氏が国に損害賠償を求めた裁判に関する記事だ。A氏は警務隊によって送検されたが、東京地検は2017年9月に嫌疑不十分で不起訴にしている。
不起訴によってA氏への嫌疑は晴れた。しかし、防衛省内の何者かが、情報を共産党にリークしたという事実は消えてはいない。この情報漏洩こそが事件の本質的な問題のはずだが、赤旗はいっさい触れようとしていない。
A氏は「身に覚えのない容疑で捜査され、身の危険も感じた」として国に500万円の賠償を求めている。この国賠訴訟では、防衛省情報本部に勤務し、問題の統幕文書にアクセスした記録がある3人のうちの一人であるA氏への捜査が妥当なものだったかが争点になっているが、赤旗記事は、A氏を犯人としてでっち上げるために最初から「いびつな犯人探し」、不当な見込み捜査がされたという筋書きにそって書かれている。
共産党の脅し
だが不思議なのは、何のためのでっち上げだったのかが説明されていないことだ。真犯人を庇うためにA氏を犯人に仕立てたとしても、警務隊には真犯人を隠さなければならない動機はない。情報を共産党に流して政府・防衛省が得をすることもない。一方で当時、安保法制の成立を阻止しようとしていた共産党にとっては、政府攻撃の〝武器〟として、この統幕文書は最大限利用されたのである。
だが、国会で靖国参拝をめぐる情報漏洩が問題にされたこの時期に、赤旗がわざわざこの裁判を記事にしたタイミングが気になる。3月1日に証人尋問が行われたことを報道する形式にはなっているが、記事の内容は、2017年3月27日の提訴時のものとほとんど同じで、裁判がいつ結審するのかなど、客観的な情報も乏しく、ニュース性のほとんどない記事なのだ。
視点を変えれば、この国賠訴訟は防衛省による情報保全や内通者捜索活動に圧力をかけるものになっている。「いびつな犯人探しをすれば、また裁判沙汰になるぞ」という一種の脅しだ。幹部の靖国参拝の情報をリークさせた者は誰か、それを突き止めようとする防衛省と、防衛省内にいる内通者を守ろうとする共産党――そんな対立構図が赤旗記事の行間から透けて見えるようだ。