一連の靖国参拝の報道で、国民が今回の件で真剣に考えなければならない問題は「憲法違反」や「政教一致」などではなく、まったく別の問題である。
陸幕副長らの靖国参拝を最初に報じたのは、参拝翌日1月10日の「しんぶん赤旗」(日本共産党機関紙)だった。記事は「陸自幹部ら靖国参拝 官用車使い 憲法の政教分離に抵触か」の見出しで第1面肩に大きく掲載された。「参拝を終え、靖国神社から出てきた小林弘樹陸上幕僚副長」のキャプションをつけた背広姿の男性の全身の写真も添えられている。記事の中では「本殿から出てきた小林副長は本紙の取材に『毎年やっていますけれど。私的(参拝)です』と答えました」と、赤旗記者と小林副長が接触し会話していることも記されている。
11日からは、この赤旗記事の内容を確認するような形で、朝日新聞など各紙が続報した。毎日新聞は13日になってはじめて、9日に撮影した靖国神社前での小林副長の写真を掲載している。記事では「確認した」との表記が目立つが、9日当日に小林副長本人かどうかができず、確認が13日になってしまったようだ。
以上の経緯を総合すると、次のことがいえる。
①9日に小林副長が靖国参拝することを赤旗、毎日の記者は事前に知っていて、神社前でカメラを構えていた。
②小林副長は外見上、自衛官であることがわかる服装はしておらず、使用した公用車も通常の白ナンバー車で防衛相所有であることを示す標記はなかった。
③にもかかわらず、少なくとも赤旗記者は、背広姿でも小林副長を識別できるだけの副長の顔や容姿に関する情報を事前にもっていた(毎日記者は撮影当日に小林副長本人であることが確認できなかった)。
④小林副長の警護がなかったか、あるいは緩かったため、赤旗記者との接触(アポなし突撃取材)を許してしまった。
つまり、靖国参拝計画は事前に赤旗、毎日新聞の記者にリークされていたということである。おそらく情報は他の新聞社にも伝えられていたのだろうが、そのリーク情報の信ぴょう性が高いと判断した赤旗と毎日だけが現地取材を行ったのだろう。ただし、現場で副長本人に「突撃」したのは赤旗だけだった。省庁との関係を大事にするあまり、毎日は「アポなし突撃」などという“行儀の悪い”ことはしなかったのである。
自衛隊の大失態
防衛省・自衛隊においては、防衛大臣や政務次官など政治家や事務次官などの背広組幹部の行動予定が事前周知されることはあっても、幕僚長など制服組の幹部の行動予定が事前に公表されることはあり得ない。プライベート情報ならなおさら非公開が徹底されている。
幹部の所持品や記憶は我が国の存亡にかかわる重要な防衛機密そのものといえる。拉致や暗殺などのテロ犯罪の標的にもなっているのが自衛隊幹部だ。それが今回、あっさりと行動に関する情報がリークされ、赤旗記者との接触も許してしまったのは、大失態である。
日本維新の会の住吉寛紀議員が唯一、国会で指摘
巷では、靖国参拝の憲法上の是非ばかりが議論される中、2月15日の衆院予算委員会で日本維新の会の住吉寛紀議員が唯一、今回の靖国参拝問題を「自衛隊の情報流出」という観点から取り上げている。「日本の防衛の要である秘密情報が簡単に漏えいするというのは国防上重大な 危機である」との認識を示した上で、住吉議員は木原稔防衛大臣の見解を質した。
木原防衛相は「防衛省・自衛隊が我が国の防衛という任務を果たすためには、適切な情報管理が必要であることは当然」として、「仮に情報漏えいが発覚した場合には、事実関係を確認した上で、判明した事実関係に基づいて、この点は厳正に対処しなければいけない」と答弁している。
赤旗2月17日に住吉議員の質問を「憲法を二重に蹂躙」の見出しをつけて、「住吉氏の発言は、憲法の政教分離原則に反する陸自の組織的参拝を擁護したのに加え、憲法が保障する報道などの『表現の自由』『国民の知る権利』を脅かすもので、憲法を二重に蹂躙するものです」と論評した。
しかし、「知る権利」を主張するならば、共産党がどうやって陸自内部の情報(それも幹部のプライバシー情報)をしたのか、情報の入手経路であろう。
しかもこの赤旗記事は質問者の住吉議員を批判しながら、木原防衛大臣の答弁内容はいっさい報道していない。国民にとって大事なのは、成り立たない「憲法違反だ」という主張よりも、国民や国家の安全に関わる情報が適切に管理されているかどうかの問題だ。木原防衛大臣は「仮に情報漏えいが発覚した場合には」と前置きをして「厳正管理」を約束した。しかし情報漏えいは「仮」ではなく最早事実である。早急に徹底した内部調査を実施し、防衛省内の潜んでいるスパイ・内通者を特定し、情報流出を止めてほしい。国会でもこの問題をもっと追及してしかるべきだと思う。