習近平の致命傷となる、中国の“地政学的弱点”【前編】|小滝透

習近平の致命傷となる、中国の“地政学的弱点”【前編】|小滝透

習近平の目指す一帯一路は、思惑通りには進まない。その理由は、以下の3つの障害のためだ。


習近平の致命傷となる、中国の“地政学的弱点”【後編】

一帯一路を阻止する3つの地政学的障壁

中国の“地政学的弱点”

①マラッカ・インド・パキスタン

習近平の目指す一帯一路は、思惑通りには進まない。

その理由は、以下の3つの障害のためだ。第1に海のシルクロード。中国は「真珠の首飾り戦略」として、海南島を起点に南シナ海、マラッカ海峡を経て、ミャンマーのシットウェ、バングラデシュのチッタゴン、パキスタンのグワーダル、スリランカのハンバンドタ、モルディブのマラオ、ペルシア湾や東アフリカ諸国(ジプチ・スーダン・ケニア・タンザニア)、さらにはスエズ運河を経た地中海に至る海洋ルートの確保を目指しているが、そこで最大のチョーク・ポイント(要衝)となるのがマラッカ海峡である。

現在、中国は世界1位の石油輸入国で、世界2位の石油消費国である。その輸入ルートの8割がマラッカ海峡を通過する。これが中国の最大のネックとなっていて、アメリカにここを押さえられている限り、海のシルクロードは絵に描いた餅となる。胡錦涛(前中国共産党総書記)が「マラッカ・ジレンマ」と呼んだ所以(ゆえん)だ。

さらにインドが障壁として立ちはだかる。インドは今、日本・アメリカが唱えるインド太平洋自由圏の主要国となっている。インド洋は、その名の通り、インドの内海である。ここに新参の中国がインドを取り囲む真珠の首飾りをもって割り込んでくる──それを唯々諾々と見過ごすことはできない。実際、インドのモディ首相は総選挙で圧勝したことを背景に、モルディブ、スリランカを訪問し、中国に対する巻き返しを図っている。

真珠の首飾り戦略で特筆すべきは、中国がスリランカを債務漬けにし、ハンバンドタ港の99年間にわたる港湾運営権を獲得したことである。かつて帝国主義時代に、香港の租借で味わったのと同様の屈辱を他者に与える行為を、中国は今現実に行っている。そのため、海のシルクロードに位置する諸国は警戒を強め、中国の開発援助を撤回する動きに出ている。

親中国のパキスタンでさえ、中国が提案したインダス河流域のディアメル・バハシャダム建設を断った。ダム建設に伴う水利権(所有・運用権)を中国が握ることが条件であったためだと思われる。パキスタンにとり、国家の生命線たるインダス川の水利権を失えば、致命傷になりかねない。そのため、いくら中国の支援を必要としていても、これだけは飲めなかったのであろう。

一方、パキスタンはカシュガル(新疆ウイグル自治区)からグワーダル(カラチ近郊の港湾都市)に抜ける中パ経済回廊のインフラ整備で合意したが、これも後述の対中国テロ等で実現するかどうか不明である。それと似たケースがネパールやミャンマーの水力発電事業でも見受けられる。

両国ともパキスタン同様、親中国の立場だが、いずれの発電事業も棚上げになっており、その理由もはっきりしている。こうした事業が、中国の一方的な利益になり、地元国の利益につながらないからである。

関連する投稿


日本人宇宙飛行士、月に行く|和田政宗

日本人宇宙飛行士、月に行く|和田政宗

今年の政治における最大のニュースは、10月の衆院選での与党過半数割れであると思う。自民党にとって厳しい結果であるばかりか、これによる日本の政治の先行きへの不安や、日本の昨年の名目GDPが世界第4位に落ちたことから、経済面においても日本の将来に悲観的な観測をお持ちの方がいらっしゃると思う。「先行きは暗い」とおっしゃる方も多くいる。一方で、今年決定したことの中では、将来の日本にとても希望が持てるものが含まれている――。


トランプの真意とハリスの本性|【ほぼトラ通信4】石井陽子

トランプの真意とハリスの本性|【ほぼトラ通信4】石井陽子

「交渉のプロ」トランプの政治を“専門家”もメディアも全く理解できていない。トランプの「株価暴落」「カマラ・クラッシュ」予言が的中!狂人を装うトランプの真意とは? そして、カマラ・ハリスの本当の恐ろしさを誰も伝えていない。


習近平「チベット抹殺政策」と失望!岸田総理|石井陽子

習近平「チベット抹殺政策」と失望!岸田総理|石井陽子

すぐ隣の国でこれほどの非道が今もなお行なわれているのに、なぜ日本のメディアは全く報じず、政府・外務省も沈黙を貫くのか。公約を簡単に反故にした岸田総理に問う!


中国、頼清徳新総統に早くも圧力! 中国が描く台湾侵略シナリオ|和田政宗

中国、頼清徳新総統に早くも圧力! 中国が描く台湾侵略シナリオ|和田政宗

頼清徳新総統の演説は極めて温和で理知的な内容であったが、5月23日、中国による台湾周辺海域全域での軍事演習開始により、事態は一気に緊迫し始めた――。


全米「反イスラエルデモ」の真実―トランプ、動く! 【ほぼトラ通信3】|石井陽子

全米「反イスラエルデモ」の真実―トランプ、動く! 【ほぼトラ通信3】|石井陽子

全米に広がる「反イスラエルデモ」は周到に準備されていた――資金源となった中国在住の実業家やBLM運動との繋がりなど、メディア報道が真実を伝えない中、次期米大統領最有力者のあの男が動いた!


最新の投稿


【新シリーズ】なべや‘怪’遺産|今宵も、UFOを探して

【新シリーズ】なべや‘怪’遺産|今宵も、UFOを探して

大人気連載「なべやかん遺産」が新シリーズ突入! 芸能界屈指のコレクターであり、都市伝説、オカルト、スピリチュアルな話題大好きな芸人・なべやかんが蒐集した選りすぐりの「怪」な話を紹介!


【今週のサンモニ】トランプ「航空機事故」会見で本当に言ったこと|藤原かずえ

【今週のサンモニ】トランプ「航空機事故」会見で本当に言ったこと|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【今週のサンモニ】「トランプ革命」を見てみれば……|藤原かずえ

【今週のサンモニ】「トランプ革命」を見てみれば……|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【読書亡羊】戦後80年、「戦争観」の更新が必要だ  平野高志『キーウで見たロシア・ウクライナ戦争』(星海社新書)、仕事文脈編集部編『若者の戦争と政治』(タバブックス)

【読書亡羊】戦後80年、「戦争観」の更新が必要だ 平野高志『キーウで見たロシア・ウクライナ戦争』(星海社新書)、仕事文脈編集部編『若者の戦争と政治』(タバブックス)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


自衛隊の特定秘密不正の多くは政令不備、いますぐ改正を!|小笠原理恵

自衛隊の特定秘密不正の多くは政令不備、いますぐ改正を!|小笠原理恵

潜水手当の不正受給、特定秘密の不正、食堂での不正飲食など、自衛隊に関する「不正」のニュースが流れるたびに、日本の国防は大丈夫かと心配になる。もちろん、不正をすれば処分は当然だ。だが、今回の「特定秘密不正」はそういう問題ではないのである。