金属疲労が除外された理由
これらの調査は空自が対象ですが、陸自の航空機整備でも同じような「共食い」が行われていたのではないか。月刊『正論』2023年7月号、岡部俊哉(元陸上幕僚長)、福江広明(元空将)、村川豊(元海上幕僚長)三氏による鼎談「使える戦略にしないと国家を守れない」のなかで、岡部氏はこう語っています。
「部隊では『共食い』をやっている。動かなくなった装備品から部品を外して、動くものを作っていく」
村川氏もこんな事例を示しました。
「海賊対処行動のような実任務につく護衛艦の艦橋の窓は防弾ガラスが取り付けられるが、任務を終えて帰国すると外して次に行く艦艇に取り付けられる」
陸自、海自でトップだった二氏がこう言っているのですから、空自以外でも「共食い」が行われていると見て間違いないでしょう。
先述したように、金属疲労による事故事例は多くあり、想定される原因の一つに入ってくるはずですが、佐賀の事故では除外されています。
「ボルトのさび止め剤の劣化による摩耗」 「元からボルトに亀裂」と仮定しているところを見ると、少なくとも新しいボルトでなかったことは間違いない。すぐに金属疲労が頭に浮かびそうなものなのに、なぜ除外されたのか。
金属疲労がスルーされた理由は2つ考えられます。1つは、検証した人たちが金属疲労についての知見がなかった。もう一つ、あくまで邪推ですが、金属疲労とわかっていながらスルーした。
もし「共食い」したボルトの金属疲労が事故の原因だった場合、ボルトの使用時間の管理ができていないので、空自のときのように整備士たちを含め、重大な責任問題になる。それを恐れてあえて除外した、と考えるのは穿ち過ぎでしょうか。ちなみに、佐賀の事故について、陸自は「処分対象者はいない」と結論付けています。
除外された原因が前者にせよ後者にせよ、仮に今回の宮古島の事故も、同じように「共食い」ボルトの使い回しの金属疲労が事故原因だった場合、佐賀の事故のように、またスルーされてしまう可能性が極めて高い。
自衛隊には、「共食い」ボルトによる金属疲労も視野に入れて、しっかり原因究明をしてもらいたい。
このままでは新たな事故が
米軍は、こういった原因究明について非常にしっかりしています。
たとえば、米海兵隊は昨年発生したオスプレイの墜落事故(五名死亡)について、今年七月に事故の報告書を発表しました。
オスプレイはプロペラが2つあり、片方のプロペラエンジンが故障すると、バランスがとれなくなって墜落してしまいます。そのため、片方のエンジンが止まったときのために、まだ生きているエンジンを止まったプロペラに動力を伝えるクラッチがついている。
そのクラッチが離れて再結合する際、衝撃が起きる現象「ハード・クラッチ・エンゲージメント」が発生し、うまくプロペラに動力を伝えられなかったことが事故原因と公表しました。対策についても徹底的に調べ上げ、クラッチを定期的に交換することで、事故発生率は99%下がるといいます。
海兵隊の報告書は誤魔化さず、正直にファクトベースで書いてあり、米軍の底力を感じました。
宮古島の事故が、仮に「共食い」が原因だったとしても、私は自衛隊を責める気になれません。元をたどれば、国防費増額を許さなかった朝日新聞に代表される左翼メディアや日本共産党など、立民の議員の反自衛隊の人々にこそ責任がある。
彼らが露骨な自衛隊差別運動を展開することで、未だに六割以上の地方自治体が募集協力を拒否しているといいます。自衛隊を批判しているくせに、災害が起こったときには便利屋のごとくこき使う。一方で、国防費増額の議論をすれば「戦争ができる国になる!」と大騒ぎし、増額を認めない。あまりにも身勝手過ぎます。
そういった状況のなかで、自衛隊は予算を増やすことができずに少ないなかでやりくりするしかなく、部品が足りないから、「共食い」でしのぐしかなかったのです。
今年、ようやく国防費がGDP二%になりましたが、正面装備だけでなく、裏方である予備品や点検整備も充実させなくてはいけません。
通常整備は部品を交換するだけで済みますが、「共食い」では取り外す作業も加わり、2倍の作業が必要となるため、整備員の負担が増加。部隊によっては、可動率の低下で訓練時間を極力減らすなどの影響も出ているといいます。一刻も早く、「共食い」問題を解消しなくてはいけません。
宮古島の事故の原因究明は、まだされていないにもかかわらず、陸自はすでに同型ヘリの運用を再開しています。
原因が有耶無耶なまま飛ばしてしまえば、「しっかり飛んでいるからいいではないか」と、原因究明が疎かになってしまいやしないかと、私は心配しています。
国家基本問題研究所の企画委員会でも私の発言に対し、「これは日本だけの問題ではありません。同型ヘリは世界で6000機が運用されていますから、原因究明がおざなりになれば、世界中で墜落事故が起こる可能性もある」と重要性を元自衛隊幹部の方からご指摘いただき、国家基本問題研究所の「今週の直言」(6月6日付)に掲載され、英訳されて海外にも配信されました。
海外の専門家から、私の記事の「金属疲労説」に賛同する意見が届いています。私の本稿での推論を、ぜひ再発防止に役立ててほしいと思います。
国基研理事、東京工業大特任教授。1952年、東京都生まれ。東京工業大理工学研究科原子核工学修士課程修了。専門は原子炉工学。東芝に入社し原子力の安全性に関する研究に従事。同社電力・産業システム技術開発センター主幹などを務め、2007年に北海道大大学院教授に就任。同大大学院名誉教授・特任教授を経て現職。