急降下している点も似ています。
佐賀の事故では偶然、現場近くの自動車教習所の車のドライブレコーダーにヘリが墜落する動画が記録されており、軌跡が分かるように1枚のカラー写真に集約された時事通信の新聞記事が掲載されていました(写真2)。それを見ると、水平飛行から突然急降下して、墜落しています。
写真2 佐賀で墜落した陸自ヘリ
今回の事故は、映像こそ残っていませんが、墜落する直前の様子が回収されたフライトレーダーに記録されており、公開されました。
〈同機のエンジンが異常な音を立て、機体のトラブルを知らせる警報音も鳴る状況が記録されていた。エンジンの出力が下がる中で、機長と副操縦士が高度を保とうと声を出し合う様子も残されていた。機体はその直後に海面に墜落したとみられ、「あっ」という声を最後に音声は途絶えた」〉(5月24日『読売新聞』)
おそらく、佐賀と同じように、一瞬で墜落したのでしょう。ヘリに積んであった救命ボートが収納されたままの状態で発見されていますから、乗員たちは救命ボートを膨らます余裕さえなかったことがわかります。
エンジン出力低下や異常音が聞こえるのも、メインローターのハブボルトの破断と同様の事象が発生したと仮定すると、辻褄が合います。
まずブレードの角度異常によるガスタービンエンジンの出力低下があり、折れたブレードがエンジンカバーを叩き、損傷してエンジンに異常音を発生、残りのブレードが機体を叩いた。その証拠に、折れたブレードと、真っ二つに割れた燃料タンクも発見されています。
メインローターの折損、異音、急降下……佐賀の事故と今回の事故は、非常に共通点が多いのです。
常態化していた「共食い」
佐賀の事故原因について、陸自は「主回転翼を回転軸に固定する部品のボルトが破断した」とし、ボルトが破断した原因については、「さび止め剤の劣化による摩耗」と「元からボルトに亀裂があった」という二通りの可能性を示しただけで、最終報告書は出されておらず、確たる原因を特定できずに終わっています。
私は、陸自の示したボルト破断の原因について、3つめの可能性を示唆したい。高サイクル疲労、いわゆる「金属疲労」の可能性です。
高サイクル疲労とは、荷重の回数が百万回ほどに達すると、金属の強度の半分以下の小さい荷重でも亀裂が進展して、最後は瞬時破断する現象のこと。「金属疲労」による事故の例は、数多くあります。
2003年、横浜で大型トラックの走行中、前タイヤのハブ折損、トラックから外れて歩いていた母子2人に直撃、死傷した事故がありました。海外でも1998年に、ドイツの超高速列車「インターシティ・エクスプレス」の車輪の外輪が金属疲労で破損。脱線転覆し、死者101名、負傷者200名に達する大事故が起こっています。
他にも、東京電力福島第二原子力発電所三号機の大型ポンプ溶接部の損傷やJAL機の圧力隔壁破断など、金属疲労によるトラブルは枚挙に遑がありません。
なぜ私が、自衛隊が発表した「さび止め剤の劣化による摩耗」 「元からボルトに亀裂」ではなく、「金属疲労」を疑っているのか。
それは、「共食い」整備の問題があるからです。「共食い」とは、航空機を整備する際に部品の在庫が不足し、整備中などで使用していない他の機体から部品を外して転用すること。
この「共食い」、昨年の産経新聞の報道によると、10年以上前から常態化しているといいます。事態を重く見た防衛省が昨年4月以降に調査したところ、2012年度に約2000件だった「共食い」の件数は年々増え、2018年度には約5600件に増加。2021年度中には少し改善して約3400件になりましたが、それでも多い。