パラオ語になった日本語は1000語
議員外交は極めて重要である。政府の正式な外交交渉の前に、首脳をはじめとした要人との会談を行い、課題や要望として聞いたものを政府与党として整えていく。そして、その国を訪問することにより顔の見える関係での信頼関係の醸成に繋がるなど、二国間の関係強化にとっても重要である。
私は先週、3泊4日で南太平洋の国・パラオを訪問。私は日本・パラオ友好議員連盟の副会長を務めており、会長の下村博文衆院議員をはじめ計5人の衆参国会議員で訪問した。パラオのウイップス大統領は、昨年9月に安倍晋三元総理の国葬など2回にわたって来日し、今年6月に来日した際に議員連盟の来訪を強く要請したことから、今回の訪パラオとなった。なお、大統領をはじめとする要人との会談、ODA案件の視察、御英霊の慰霊のため、自由時間は全くない日程であった。
パラオは今回が初めての訪問であったが、その親日国ぶりに驚いた。親日国とは聞いていたが、私が繰り返し訪問する台湾と同等かそれ以上かもしれないと感じた。
パラオは1920年から1945年まで、日本が委任統治をしていた。1914年に始まった第一次世界大戦でドイツの植民地からパラオを解放してからの関係では、31年にわたる。日本の統治時代を懐かしむ方が極めて多く、パラオ語になった日本語は1000語あり、「ダイジョーブ」「シャシン」「オキャク(お客)」に加え、ハンガーは「エモンカケ」、ビールでの乾杯は「ツカレナオース」である。
なお、大統領主催晩餐会でパラオの国務大臣と乾杯したところ、「ショウトーツ」と返ってきた。杯と杯をぶつけるので、「ショウトーツ」とも言うとのこと。ちなみに国務大臣(=外務大臣)の名前は「アイタロー」で、日系で日本語の名前である方や、日系でなくても日本人を敬愛して日本の名前にしている方もいる。パラオの人口は4分の1が日系であり、あちこちで日本の名前の方に出会う。
経済的揺さぶりをかける中国
パラオには日本の委任統治時代、同じく委任統治領となったミクロネシアの島々を管轄する「南洋庁」が置かれた。昭和19年の統計では、島民の4倍を上回る日本人2万7千人が居住し、漁業や農業、鉱業といった産業育成に努めた。
しかし、先の大戦においてパラオはペリリユー島等が大激戦地となり、ペリリュー島、アンガウル島では日本軍は玉砕している。なお、ペリリュー島では、米軍の上陸が迫るにあたり、「一緒に戦う」と言ったパラオ人を全員島外に避難させており、この話は今も語り継がれている。今回、議連ではペリリュー島各地で御英霊の慰霊をさせて頂いた。
パラオは現在、中国による危機にさらされている。EEZ(排他的経済水域内)に海洋調査船などの中国公船が相次いで侵入しており、まさに日本の尖閣諸島周辺に近い状況となっている。我々の訪問時にも日本の海上保安庁との合同訓練が行われるなど、パラオの沿岸警備隊は日本が支援している。
また中国は、中国人をパラオに送り込み定住させるという戦略を取っている。パラオは観光が唯一の主要産業であり、観光の際は入国にあたりビザは必要ない。中国人が観光目的でパラオに入国した後、そのまま居座り、地域の有力者等の口添えで労働ビザを取得しているのである。
パラオの国内人口は1万2千人であり、中国人の定住者が1000人を超すとパラオ社会に大きな影響が出ると、パラオの人たちは危惧している。まさに中国が狙っているのはウイグルと同じ状況を作り出すことであり、最終的に国自体を中国人で乗っ取ろうという戦略が透けて見える。日本は入出国管理の厳密化についてパラオ政府に協力する予定だ。
パラオは台湾と国交があり、中国とは国交を樹立していない。また安全保障は協定によって米国に委ねている。南太平洋の国においては、ソロモンが台湾と断交し、中国と国交を結ぶなど、中国が圧力を強めており、パラオもそのターゲットにされている。先の大戦で激戦の地であったのは、それだけ地政学上重要な場所であり、コロナ前には中国は一気に年間10万人近い観光客をパラオに送り込み、翌年には一気に絞り込むなど経済的揺さぶりをかけている。