中国に「親しみを感じる人」はわずか2.2%
まず日本が中国と政治的に対立しているのは、米国が中国と政治的に対立しているからではなく、日本の政治的価値観と中国の政治的価値観が明確に異なるからです。
日本は、他者の自由権を侵さない限り個人の自由権を行使できる【自由主義(リベラリズム)】と、統治者と非統治者が同一である【民主主義】を憲法の精神としています。
一方、中国は、国家が与える社会権のために個人の自由権を制限する【反自由主義】と統治者と非統治者が同一となりえない民主集中制という名の【権威主義】を国家の前提としています。
尖閣侵犯問題は勿論のこと、この中国の専制体制に関連して発生している人権問題であるウイグル問題・チベット問題・台湾問題等をめぐって日中が政治的に対立することは至極当然です。また、日本と同様の政治的価値観を共有する米国が同様に中国と対立するのも当然です。
一方、日本経済は【資本主義】、中国経済は【国家資本主義】の体制を取っていて、実際には不公平ではあるものの、日本が不利益を甘受することで日中には経済的関係が存在しています。
中国が日本最大の貿易相手国であることは間違いありません。しかしながら、今日の国際社会では、人権に直結する政治的価値観は経済的関係よりも優先されます。その代表的な例が、一方的にウクライナに侵攻したロシアに対する経済制裁です。畠山氏はこの国際社会の常識を完全に無視し、経済関係を根拠に、中国と政治的対立することを問題視しています。
中国と日本の間で物や人が行き来していることや中国の人たちが身近で暮らしていることを根拠にウイグル問題・チベット問題・台湾問題等の人権弾圧を見過ごすことも不合理です。
何よりも、「中国政府も身近にある」などという意識を大部分の日本国民が持っていないのは自明です。その証拠に、内閣府が毎年行っている『外交に関する世論調査(令和4年10月調査)』では、中国に「親しみを感じる人」はわずか2.2%、「どちらかといえば親しみを感じる人」でも15.6%に過ぎません。
『外交に関する世論調査(令和4年10月調査)』
「中国政府も身近にある」わけがない
また世代別では確かに若い人が親しみを持つ割合が最も高いと言えますが、畠山氏の言う「内閣府の外交に関する世論調査で若い人の41%が中国に親しみを持っている」という事実はこの調査結果には認められません。
「親しみを感じる人」が8%、「どちらかといえば親しみを感じる人」が20%で両者を足しても28%にしかなりません。それに対して「親しみを感じない」が39.3%、「どちらかといえば親しみを感じない人」が32.7%で両者を足すと62%が親しみを感じていないことになります。
客観的調査においてこんなに国民が親しみを感じていない中国に対して「中国政府も身近にある」などとするのは、テレビ放送を使った政治的宣伝、すなわち【ブラック・プロパガンダ】と言えます。勿論、主権国家と平和な外交を行うことは重要ですが、人権蹂躙国家に対して問題を指摘しないことは人権蹂躙に加担していることと同じです。