やっと眠りから覚めた日本
戦争に関し、思考することまで停止状態にあった日本は今、米中新冷戦の最前線に立たされ、戦後最も厳しい安全保障環境に置かれている。
歴史的な蛮行に及んだプーチン大統領と同じ過ちを、習近平主席が犯さないという保証は誰もできなくなっている中、日本有事を意味する台湾有事の危険性が日々高まっている。
日本が太平の眠りから覚め、どうすれば戦争を抑止できるのかについて真剣に考え、行動を起こさなければ、私たちの子孫に対しての責任をとれなくなるほどの厳しい状況に直面している。
二〇二二年十二月十六日、岸田文雄内閣は、「戦略三文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)」を閣議決定し、安全保障政策上、戦後最大の転換を図った。
そして二〇二三年一月十二日、日米の外務・防衛閣僚は安全保障協議を行い、日米同盟強化の歴史においても最高度の連携をとることを確認した。やっと眠りから覚めたと認識したい。
本書は、日本の置かれた危機的な状況について説明し、安全保障力強化の必要性をご理解頂くための一助になればと思い執筆した。
最初に、ウクライナ戦争の教訓から日本が学ぶべきことを述べる。ウクライナ戦争については中国の習近平主席も分析しているだろうから、中国の視点も含めて、生起するかもしれない戦争にどう備えていくべきなのかを述べたい。
次いで、今、様々な場で話題になっている、「台湾有事は日本有事」という実態を説明したい。三年前に飛鳥新社から出版した『中国、日本侵攻のリアル』でもこの認識を述べたが、当時はまだ広がりを見せていなかった。そもそも台湾有事が起こるのか、という危機認識の違いがあったものと思う。
しかし、二〇二一年四月、菅総理とバイデン大統領の日米首脳会談において、台湾海峡の危機認識が共有されるとともに、同年三月、米国議会においても、デービッドソン前米インド・太平洋軍司令官が、二〇二七年ころまでに中台紛争が生起する可能性を指摘した。この頃から、メディア報道も含め、中国と台湾との間の緊迫した状況が日本全体に認識され始めた。
だが、中台紛争が生起した際、「日本は巻き込まれる」という論調が主体であり、「日本が戦争の当事者になる」という認識の共有はまだ十分ではないように思える。
このため、日本が当事者として、中台紛争に備えなければならないという状況、まさに安倍元総理も言及されていた、「台湾有事は日本有事、日米同盟有事」となる状況について説明したい。その上で、では今後日本は、どうすべきなのかを提示する。
二〇二二年十二月に閣議決定された「戦略三文書」に関する評価も含め、筆者なりの視点で、在るべき国家戦略についても述べたい。
(続きは『中国を封じ込めよ!』↓)
1957年生まれ。79年に防衛大学校卒業後、陸上自衛隊に入隊。戦車部隊勤務を経て、93年、米陸軍指揮幕僚大学へ留学。2010年、陸将、第7師団長。11年、統合幕僚副長。12年、北部方面総監。13年、第34代陸上幕僚長と歴任し、16年に退官。