「日中友好人士」の末路
中国の無法、手口を知りたいという観点からいえば、保守派の読者にとって実に興味深い本であることは間違いない。
一方で、保守派であればこそ、先の疑問点以外にも気になる点もある。
鈴木氏は本人が本書につづっている通り、筋金入りの親中派で、いわゆる「日中友好人士」として長く過ごしてきた。中国対外連絡部の幹部と近しかったことが影響してか、中国外交部が所轄する外交学院や、国家安全部が所管する国際関係学院に在籍。国際関係学院では学生や職員同士の交流が禁じられ、アウディによる送迎付きの日々を送ったという。
さらに自身の親中ぶりは自ら次のように語るほどだった。
「日中双方の情報について理解を高めるとともに、私が中国側の主張に近い発言を日本でしていることが、中国側の私への協力がより強くなる要因だったのではないかと思っている。歴史認識問題、靖国神社への参拝問題、尖閣諸島の問題など、私は日本側の主張よりも、中国側の主張を日本の中で発言していた」
こうした、中国にとって使い勝手のいい「日中友好人士」が時代を経て逮捕・拘束されたとなれば、中国側の「スパイ摘発強化」といった事情の変化のみならず、中国国内の権力闘争、かつての「日中友好人士」が現在の中国にとってどういう存在になったのかなども影響しているに違いない。
ところが本書はもとより、各メディアのインタビューなどを見る限り、あまりこうした点で突っ込んではいないようだ(わずかに『正論』2023年6月号が権力闘争の影響に触れている)。
「拘束体験記」としての価値や読みごたえはあるし、どんな来歴があろうと日本人が不当に拘束された以上、日本政府や関係所管はしかるべき措置を取るべきだというのは言うまでもない。だが、「普通のビジネスマン」の拘束と、同様に考えていいものかどうか。
特に「公安調査庁に中国大物スパイ」との触れ込みには注意が必要だろう。毎日新聞社と毎日新聞出版が連携し、ともに社をあげて刊行や宣伝を後押しするには、どうも謎の残る一冊と言うほかないのだ。
ライター・編集者。1980年埼玉県生まれ。月刊『WiLL』、月刊『Hanada』編集部を経てフリー。雑誌、ウェブでインタビュー記事などの取材・執筆のほか、書籍の編集・構成などを手掛ける。