今回の県議選で特筆すべきは、川勝知事を強く支援してきた共産党が議席を失ったことである。浜松、静岡で有力な候補を立てたが、両候補とも一歩及ばなかった。
選挙前、静岡市の共産党現職候補は新聞チラシ号外で、(県民のために国のひどい政治にもたちむかう)として、「『リニア建設中止』、浜岡原発は廃炉」を訴えていた。「リニア建設中止」が党是であり、県議会でも「リニアより“命の水”」を訴える川勝知事を共産党は熱狂的に支持してきた。
その象徴が2021年6月の県知事選だった。共産党はそれまでの知事選とは異なり、独自候補を擁立せず、川勝支持に回ったのだ。
もし、2年前の知事選挙に自民党の有力候補が立っていれば、共産党の12万から15万票が当落の行方に大きく左右した可能性は高い。
「反リニア」川勝知事を推す熱狂的な支持勢力、共産党が県議会から消えたことの意味は大きい。
なぜなら、自民党県議団は2025年6月の県知事選に準備しなければ、間に合わないからだ。新たな県議会の体制スタートとともに、県知事選の幕が切っておろされた。万が一の「不信任決議案」提出に備えて、有力候補を用意しておくべきである。
2019年冬に戻ってみよう。
2019年12月19日、JR東静岡駅南口に整備を進めていた「文化力の拠点」施設に、自民党県議団が見直しを求めていることに不満を持った川勝知事が、自民党県議団を念頭に、「やくざの集団」「ごろつき」などと発言、大騒ぎを招いた。
自民県議団は「『やくざの集団』『ごろつき』はどこの集団、誰を指すのか」「『やくざの集団』『ごろつき』発言をいまだに撤回しないのはなぜか」などという質問状を川勝知事に送った。発言をきっかけに川勝知事肝煎りの「文化力の拠点」事業は雲散霧消した。
ただ川勝知事は発言の撤回、陳謝で事を終えた。次の一手を打つにも自民党県議団には有力候補の当てがなかったからだ。
さらに2020年10月の会見で、今度は当時の菅義偉首相を「教養レベルが露見した」「学問をした人ではない」「学問立国に泥を塗った」などとめった切りにして、こちらも大騒ぎを招いた。このときも自民党県議団はなす術もなく、事の収拾を図ったに過ぎない。
実力派の国会議員は皆無な理由
なぜ、静岡県議会がこれほどまでに弱体化しているのか?
その大きな理由は、他県に比べて、静岡県が非常に恵まれているからなのだろう。
年間を通じて温暖であり、駿河湾、浜名湖、伊豆の温泉地などとともに東名高速道路、新東名高速道路、新幹線の交通網が整備され、何よりも湧水に恵まれた「富士山」が企業誘致や観光業などで多大な利益をもたらしてきた。日本で最も恵まれた自治体と呼ばれている。
このため、歴代知事は中央政府への要望など必要性は非常に少なく、結果、県議会も大きなテーマを持たなかった。
5月19日からのG7広島サミット関連のニュースを見てみれば、それがはっきりとわかる。G7に合わせて15の閣僚会議を全国各地で開催しているが、静岡県は最初から蚊帳の外である。県民はそんなものと考えるかもしれないが、実際は自民党の国会議員、県会議員らの力がないから、静岡県内での閣僚会議を招致できなかったのだ。
静岡県内の国会議員を見れば、全国的に名前さえ知られていない議員ばかりだ。現大臣どころか経験者もほとんどいない。国会議員というバッジをつけていればそれで満足しているとしか思えない。
激しい物言いをする、京都出身の川勝知事に面会して、リニア問題で丁々発止、鋭い苦言を呈する実力派の国会議員は皆無だ。
今回、静岡市長となった難波喬司元副知事も岡山県出身で、川勝知事が個人的に招聘した。難波市長も同じく激しい物言いで、上から目線で職員たちに指示するはずである。それだけ、静岡県民はおとなしく、人が良いのである。
となると、川勝知事に負けない人材を探すしかない。
いまから川勝知事の対抗馬を探せ
ことし2月の静岡県議会で川勝知事の答弁(筆者撮影)