宮城県に飛来した気球も「ほぼ間違いなく中国」
2月2日、米国政府は中国の気球が米国の上空を飛行していると発表した。米国は「中国の偵察用のもの」と断定し、米国内の各テレビ局はトップニュースで報道を続け、国民も大騒ぎとなった。米国は気球発見後に米軍首脳部を緊急招集、そして迎撃等の対応を協議した。
すでに1日にはバイデン大統領が撃墜を指示しており、戦闘機が待機した。3日には、ブリンケン国務長官が中国に対し、「明確な主権侵害と国際法違反」と伝達するとともに、2月上旬に予定していた中国訪問を延期した。その後、4日に偵察用気球が海上に出たところで領空内において撃墜した。撃墜を待ったのは地上への影響を考慮したとされた。
中国政府はこの撃墜について、「民間のもので過度な対応」と激烈に非難しているが、すでに偵察用気球の残骸は米海軍に回収され、今後詳細に分析が行われる。米国務省高官は9日には、気球に付いていたアンテナは通信の傍受や位置情報の特定ができるものと発表している。
こうした気球は、中南米でも飛行しているのが確認されており、中国政府は中国のものであると認めるとともに、「民間のもので、飛行試験に使われていた」ものが気象条件で流されてしまったと発表した。
しかし、米国防省高官は、過去、東南アジアなど世界各地で中国の気球が飛行しているのを確認しているとし、米国内においてもトランプ政権時に少なくとも3回、バイデン政権発足時に1回、米国本土を短時間通過していると指摘した。米国はこれらは中国の偵察用のものと確信し綿密に分析していたとみられる。それが、今回における中国断定の発表につながった。
なお、日本においても去年1月に九州の西方で、今回、米国を飛行したものと類似の気球が飛んでいるのを確認していると、松野博一官房長官が9日に発表した。
そして、この他にも複数回、同様の気球が日本上空を飛行していることが確認されており、3年前の令和2年6月には宮城県上空などを飛行。当時飛来した気球と今回の米国上空の気球について、東北大学の服部誠准教授(天文学)は東北放送の取材に対し、「ほぼ同型」と答え、宮城県に飛来した気球も「ほぼ間違いなく中国から来た」とし、政府に「真相を解明して欲しい」と述べた。
「単なる偵察用気球」と侮るなかれ
3年前、我が国においては気球発見後、防衛省が「24時間、レーダーその他で監視」と発表したが、結局、防衛大臣の会見でも「正体不明」とされ、気球は太平洋へ抜けていった。政府は、3年前の気球飛来について再分析を行い、飛来時の対処要領を早急にまとめるべきである。
中国の偵察用気球については、偵察用のみならず、何かを積める、散布できるということになれば、化学兵器にもなる。「単なる偵察用気球」で済ますのでなく、一段上の対応が必要となる。米国との情報共有は、特定秘密保護法ができたことにより容易になったので、3年前の情報と米国が撃墜した偵察用衛星の残骸の情報を突き合わせ、分析することが重要だ。
この点について松野官房長官は、「2020年6月や2021年9月などに我が国上空において目撃された飛行物体については、今般のアメリカにおける事案との関連も含め分析をしている」と記者会見で述べている。
では、こうした偵察用気球が飛来した時に、日本の自衛隊は現行法で気球を撃墜できるのか。
浜田靖一防衛大臣は7日の記者会見で、偵察用気球が日本の領空を侵犯した場合、「対領空侵犯措置」として自衛隊法84条に基づいて対応すると述べた。
そして撃墜できるかどうかについては、「対領空侵犯措置の任務に当たる自衛隊機は武器の使用ができる。国民の生命、財産を守るために必要なことは実施する」と述べた。私もこの「武器の使用ができる」ことについて、現行法において明確に撃墜することが出来るのか防衛省に確認したが、防衛大臣の会見の文言と同じ回答にとどまった。
通常、領空侵犯した航空機に対しては、スクランブル発信した自衛隊機等から退去ないし着陸するよう無線で警告したりサインを送ったりし、強制的に着陸させる。着陸の意志を示さない場合に警告射撃を行う。それでも従わない場合は撃墜することもあり得る。
しかし、撃墜は、国民の生命財産が侵害される恐れのある時に、正当防衛、緊急避難として行うことが出来るというのが政府のこれまでの見解である。
この点がネックになりかねないと私は考えており、無人機や偵察用気球に対しどういった対応が出来るのかの明確な政府解釈の取りまとめと、現行法で対応できない部分があるのであれば法改正をしなくてはならないと考える。現在の政府解釈では、日本を領空侵犯した偵察機が、国民の生命財産が侵害される恐れのある偵察活動を行っているかを判断しなくてはならない。
しかし、それをどう判断するのか。
無人である偵察用気球や無人偵察機の意志をどう確認するのか。他国は無人偵察機であっても領空侵犯すれば撃墜する。今回、米国が取ったのも国際的には当然の行動だ。