11月13日、岸田文雄首相が訪問先のプノンペンで尹錫悦韓国大統領と初の公式会談を行った。韓国大統領府の関係者は、懸案の一つである朝鮮人戦時労働者問題について、「首脳間で具体的な議論はなかったが、両国の実務者間で解決策は1~2個に絞り込まれた」と説明した。
尹錫悦政権は発足以来、日本企業の財産が現金化され、それに我が国が制裁を加えるという事態を避けるべく様々な努力をしてきた。当初言われていた韓国政府による肩代わり(代位弁済)は原告の同意が必要なことが分かり、採用できなくなった。それに代わって、原告の同意が不要な「日帝強制動員被害者支援財団」による肩代わり(併存的債務引き受け)が浮上し、日韓の外交当局が法的な詰めをしているという。
財団肩代わり方式の問題点
その方法には三つの問題点がある。第一は日本企業の関与の罠、すなわち財団の肩代わりによる支払いのプロセスに日本企業の関与が求められ、原告に対する債務を認めさせられる危険があることだ。併存的債務引き受けで肩代わりを行う場合、債務者と引受人、つまり日本企業と財団が契約を結ぶことが求められる。また、韓国では日本企業に財団への出資を求める声が出ている。日本企業が財団と契約を結んだり、出資したりすることは、国際法違反の韓国最高裁判決を認めるという意味を持つ。
日本製鉄と三菱重工はすでに日本での裁判で勝訴している。韓国最高裁は2018年10月の判決で日本の判決について、韓国の「善良な風俗や、その他の社会秩序に違反する」として「効力を承認できない」と断言した。つまり、日韓の法秩序が正面から衝突している。その中で、韓国側の法秩序を認める行動を取るべきではない。
二つ目の問題点は公平性の欠如だ。韓国政府が知恵を絞って財団による肩代わりが実現したとしよう。この場合、日本企業の財産は守られる。国際法が守られたという点で歓迎すべきだ。しかし、韓国内では、財団の肩代わり支払いから除外された多数の元労働者、元軍人軍属らから不公平だとする不満が噴出することが予想される。
三つ目の問題点は韓国最高裁判決の呪縛だ。判決は「日本の不法な統治に対する慰謝料請求権」の存在を前提にしている。それはサンフランシスコ平和条約でも認められず、1965年の日韓国交正常化から現時点まで韓国政府もその立場に立っていない。しかし、日韓の弁護士、学者、活動家の中には、我が国が不法な統治に対する慰謝料を支払うべきだと考えている人々もいる。
日本の国益は譲れない
以上のどれも容易に解決できる問題ではないので、財団による肩代わりという枠組みは尹錫悦政権が一定の統治力を持っている間だけしか維持できない。次の政権が日本政府と企業に国際法違反の要求をしてくる可能性があることを、日本側も最初から踏まえておく必要がある。そのことを前提にしながら、一定の距離を置きつつ、我が国の国益にかなう範囲で韓国と付き合っていくしかない。(2022.11.21国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)