何度でも言おう、増税なき防衛費増額を!|和田政宗

何度でも言おう、増税なき防衛費増額を!|和田政宗

初日の13日は増税反対や徹底議論をとの意見が圧倒的多数を占めたが、最終的に税制大綱には、令和9年度において増税で1兆円強を確保することが記述として載ってしまった。あらゆる手を尽くせば、増税なき防衛費増額は可能であるのだが、その議論も全くなされようとしなかった――。


これでは対GDP比2%にならない

今月5日、防衛費を来年度から5年間で総額43兆円とするよう岸田総理は鈴木財務大臣、浜田防衛大臣に指示をした。中国による侵略危機、北朝鮮のミサイルの脅威に備えるためにも防衛費の増額は必須である。

メディアにおいては、岸田総理は「5年後に対GDP比2%」となるよう指示を出したかのように報道されたが、実は「現在のGDPの2%に達するよう」との指示であり、経済成長を考えれば、5年後に対GDP比2%とはならない。

さらなる増額を行わなければ、日本が危機に陥った時、支援をしようと考える国からは、「日本は世界標準の対GDP比2%の防衛費も確保せず、必要な対応をしてこなかった。支援をすべきか?」と疑問を持たれかねない。5年後の対GDP比2%の防衛費をしっかりと確保しなくてはならない。

防衛費の増額については一定の前進があったと考えた矢先、「防衛費増額の不足分1兆円は増税で賄うよう検討を」との発言が8日になって岸田総理から出た。あまりに唐突であり、かつ「税制調査会で議論を」とのことであったが、来年度の税制大綱の決定はその時点で翌週末に予定されており、1週間で1兆円の増税について議論して決めよ、というものであった。

これには自民党内から異論が噴出した。そもそも増税が必要なのかの検討も議論もなされず、増税ありきの話であること。さらに、こうした課題は政務調査会において、国の予算全体のあり方を検討する中で、財源が本当に捻出できないのかしっかりと議論すべきであり、いきなり「税制調査会で」というのは通常のプロセスではあり得ないこと。

そして、議論の期間があまりに短いことについて、増税反対議員のみならず賛成派とみられる議員からも、「議論を尽くすべきだ」と拙速な意見集約に反対の声が上がった。

安倍元総理が提唱した防衛国債は検討されず

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そもそもの疑問は、防衛費増額にあたり、なぜ防衛国債の発行の検討を行わないのかということであった。安倍晋三元総理は「防衛予算は次の世代に祖国を残していく予算だ」として、防衛国債の発行による財源確保を提唱していた。過去にない位置まで日本の外交と防衛を高めてくれた元総理が提唱したことなのに全く検討がなされようとしなかった。

また、国債の60年償還ルールをやめたり、期間を見直せば、防衛費増額分の財源はゆうに出てくる。外為特会の含み益の活用もそうだ。さらに、税収は2年連続過去最高であり、新型コロナ禍からの経済回復によりさらなる増収も見込まれる。

増税ありきが議論の前提になっており、あらゆる手を尽くせば、増税なき防衛費増額は可能であるのだが、その議論も全くなされようとしなかった。

そもそも現状において増税を提案することが国民感覚からかけ離れている。円安により輸出系の大企業の業績は堅調であるが、新型コロナの影響で中小事業者は苦しい状況からようやく先の明るさが見えてきたところがほとんどだ。

自民党税制調査会における今週火曜日からの議論は、増税以外の検討が排除されたまま突き進んでいった。水曜日には、法人税と、所得税(復興特別所得税を含む)、たばこ税の増税で1兆円強を確保するという案が出てきた。周到に準備されていたかのようだった。

中でも復興特別所得税2.1%のうち、1%を引き下げ、その分を防衛のための税とするという党税調の当初の説明は、「なぜ一丁目一番地である東日本大震災復興のための財源に手をつけるのか」と被災地に怒りが広がった。

その後、「復興特別所得税の税率を現下の家計を取り巻く状況に配慮し1%引き下げ、課税期間を延長する。そして、所得税額は当分の間、税率1%を新たに課す」との説明に変わったが、「小細工に過ぎない」などの厳しい意見が被災地の方々から寄せられている。

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