リニア妨害、川勝平太知事の新たな“難癖”|小林一哉(静岡新聞元記者)

リニア妨害、川勝平太知事の新たな“難癖”|小林一哉(静岡新聞元記者)

「62万人の『命の水』を守る」とリニア工事を妨害してきた川勝知事。地元記者・小林一哉氏が『知事失格』(飛鳥新社刊)で、その「命の水」の嘘を暴いたが、川勝知事は頬かむりを続けている。それどころか、リニア工事について、新たな“難癖”をつけて妨害する始末……。リニアは沿線都府県だけの問題ではなく、日本経済全体の問題。川勝知事のエゴで止めていいはずがない!


2019年6月5日、川勝知事は中部圏知事会議の席で、「建設促進期成同盟会」への加入申請書を唐突に、大村知事に手渡した。
 
何らの根回しもなく、突然、申請書を受け取った大村知事は、大井川下流域の水環境問題から反リニアの姿勢を続ける静岡県が何のために加入申請を求めているのか警戒して、申請書を保留した。
 
それから3年が経過して、川勝知事はことし6月2日、再び、加入申請書を大村知事に直接、手渡した。今回、山梨、奈良県知事らの賛成意見もあり、「現行ルートでの整備を前提に、品川―名古屋間の2027年開業、大阪までの2037年延伸開業を目指す」という各都府県の求める意思確認を行い、7月14日、全会一致で静岡県の加入を認めた。
 
期成同盟会はその名のとおり、リニアの建設を「促進」するための団体である。
 
8月9日のオンライン総会で、川勝知事は「リニアについて、県の基本姿勢は整備の促進。現行ルートの整備を前提に、スピード感をもって県内の課題解決に取り組む」などと表明した。沿線知事らは「早期全線開業を目指す態勢が整った」と川勝発言に期待をにじませた。
 
ところが、前日の8日に行われた川勝知事によるメディア各社を引き連れた田代ダム視察では、さらに大幅な時間を要する新たな課題をJR東海に突き付けている。

「工事中を含めて県外流出する湧水の全量戻しが必要であり、その約束が果たされなければ南アルプス工事を認めることはできない」
 
言っていることが、今日と昨日でまったく違うのである。
 
田代ダムの視察では、「推進」どころか、JR東海が大井川の水量減少対策の一案として示している「ダム取水抑制案」を否定したり、残土置き場予定地の燕沢(つばくろさわ)は、「極めて不適切」と否定したりと、リニア工事に対して新たな“難癖”をつける始末だ。
 

『知事失格』を読んで真実を知ってほしい

8月9日のリニア新幹線建設促進期成同盟会に出席後に会見を行った川勝平太知事(静岡県庁、筆者撮影)

9日の定例会見で、地元のテレビ局記者が「知事就任以来、13年の間に、中部横断自動車道とか新東名など、鉄道以外でもさまざまな公共工事が行われている。今後、行われる工事に対しても、(県外流出する湧水の)全量戻しを求めていくという理解でよろしいか」と質問。これに対して、川勝知事はこう答えた。

「リニアに関連して、あれが62万人の命の水になっている。しかも、(大井川の水の状況は)カツカツの状態になっているということだから、全量戻しというのは、掘削中に出るすべての水を戻すことだと有識者会議で言っているわけで、(JR東海のリニア工事という)個別具体的な話だ」
 
この発言に対して、テレビ局記者がさらに質問した。

「静岡経済新聞の小林氏(筆者)が本(『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太知事「命の水」の嘘』飛鳥新社)を上梓されて、62万人というのは事実ではなくて、実際は26万人ではないかという記載があった。この本の中には、知事が嘘を述べているという記述もある。(『知事失格』を)読んだ後、事実でないということであれば知事は法的措置等を取るのか?」
 
川勝知事は「いまのところそういうスタンスはない」と回答し、お茶を濁すだけだった。
 
それでも、筆者が本書で取り上げた「62万人の命の水」を再び取り上げ、「命の水を守る」がリニア問題に対する唯一無二の論拠であると川勝知事があらためて宣言した。
 
リニアは、沿線都府県だけの問題ではない。予想される南海トラフ地震、首都直下型地震は必ず来る。現在の東海道新幹線はひとたまりもない。その時に首都圏、関西圏を結ぶ基幹インフラとして、中央新幹線が重大な役割を担うことは間違いない。

JR東海の一プロジェクトではなく、日本の国家プロジェクトなのだ。一知事のエゴで、妨害していいはずがない。
 
なぜ、リニア工事が静岡県でストップしているのか、『知事失格』を読んでいただいて、真実を知ってほしい。

知事失格 リニアを遅らせた川勝平太 「命の水」の嘘

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