ペロシ米下院議長の台湾訪問を巡り米中の駆け引きが続いている。バイデン米大統領と習近平中国国家主席による2時間の電話会談(7月28日)においても、習氏は「火遊びすれば必ず身を焦がす」と述べ、対抗措置も辞さない姿勢を示して、平行線に終わったと報道された。
懸念される米中軍機の衝突
大統領継承順位が副大統領に次いで2位の要職である下院議長の訪台は、中国からすれば見過ごすわけにはいかないだろうし、時期的にも今秋以降に控えた習氏の党総書記3選に向けて強い姿勢を示す必要がある。中国国防省報道官が「米国が訪台を実行するならば、中国軍は決して座視しない。外部からの干渉と台湾独立の試みを阻止するための強力な措置をとる」(26日)と軍事的手段に触れたことは、米政府としても大きな懸念になっている。
立法府の議長の訪台を止める権限は、行政府の一機能である米軍にはない。しかしバイデン氏に「米軍は(訪台が)いい考えだとは思っていない」(20日)と発言させたことは、ペロシ氏の空輸を担う米軍として中国軍機との偶発的な衝突を危惧してのことであろう。バイデン氏としても、訪台しなければ中国による圧力に屈するのに等しいと主張する議員たちへの配慮と同時に、無用な衝突は避けたいとの思惑が錯綜した中での一言であろう。
ペロシ訪台だけが問題ではない
29日、ペロシ氏は、バイデン大統領のインド太平洋重視構想の一翼を議会も担いたいと述べるにとどめた。同じ日、ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官は、「米国の『一つの中国』政策に変更はない。好戦的な言葉は不必要だ」とした上で、訪台に対抗して「中国が軍事面で何か行動しているという具体的な兆候はない」と述べており、訪台に現実性が出てきた。
実現すれば、台湾に対する米国の関与姿勢を示すことになり、台湾の米国に対する信頼性も高まるであろう。その一方で、中国の米国に対する対抗意識が強まり、中国は更に台湾侵攻能力を強化していくであろう。
問題はペロシ訪台だけではない。訪台があるなしに拘わらず、既に台湾海峡危機は、制御できない限界点に向かって時間が経過している。その限界点に達しないよう、中国を抑止する米国の対中戦略が強化されるとともに、日米、日米豪、日米台を始めとする多国間の連携により、台湾海峡危機を抑止する努力が求められている。(2022.08.01国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)