安倍元首相逝去 深い悲しみと反省|山口敬之【WEB連載第12回】

安倍元首相逝去 深い悲しみと反省|山口敬之【WEB連載第12回】

「お亡くなりになった」という書き方は不正確で不適切だったと思う。政府筋の情報として「蘇生の可能性は極めて低い」というような伝え方にするべきだったと反省している。記者としても人間としても未熟な私は、悩みながら罵倒されながら、ただ倒れないで仕事を続ける――。


速報音が鳴るたびに心臓が締め付けられた

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そうこうしているうちに、最初の近親者からまた電話が来た。
「心肺停止から1時間以上経った。もう蘇生の可能性はない。家族の了解を得て輸血を止め次第、県立(医科大学病院)で死亡会見をする。16時過ぎになるだろう」

もうこの近親者は泣いていなかった。
「ご家族には伝わっているんですか?」
「ご家族は全て知っている。今、昭恵さんが奈良に向かっている」
「死亡したという認識なんですか?」
「そういうことです」
安倍さんの死を受け入れたことで吹っ切れた近親者の強さに、私は畏怖の念を禁じ得なかった。

この電話の最中に、またNHKの速報音が鳴った。心臓が締め付けられるような思いで「ついに来たか」と覚悟したが、速報は犯人の氏名と年齢だった。

安倍さんのことを支持し、生還を切望する多くの日本人は、この速報音が鳴るたびに心臓が締め付けられているだろう。
「助かって欲しい」「何とか吉報を」と思っていればいるほど、速報音に苦しめられる。

この後、私から3本、関係者に電話をかけた。政府は死亡したという認識であるということ、家族にはその事実が伝わっていることを確認した。

そして1人は「SNSやネット番組などで現状を説明しても構わない」「時間の問題だから。大手メディアもすぐにどこかが速報すると思いますよ」との答えだった。

私は得ている情報を公開する決意をした

それでも、私はSNSに書いたり、知人に伝えることはしなかった。私の仕事ではないという気がしていたからだ。

その後もNHKは速報で様々な情報を伝えた。しかしその内容は犯人の経歴などが中心で、安倍さんの容態についての報道はピッタリと止まったままだった。

ただ、私は生還の可能性がないことを知っていたから、速報音の一つ一つに怯え苦しむことはなくなっていた。

そのうちに私は、生還の可能性がないことを確認しているのに、そして安倍さんの家族がその現実を知らされているのに、伝えずに黙っていることに良心の呵責を感じるようになってきた。

政府発表の前に人の生き死にについて書くべきではないという気持ちと、確認したことはどんな残酷な現実でも伝えるべきだという考えが鋭く交錯した。

長い間悩んだ。この間インターネットの緊急特番にも参加したが、このことで頭がいっぱいで、何を話したか覚えていない。

そして、ある番組の出演中に重要な関係者からの電話が鳴った。生出演中だったが、他の人が喋っている最中だったので、黙って席を離れて電話を受けた。

ここでは、この電話の内容は明らかにできない。ただ、この電話を切ってしばらくして、私は得ている情報を公開する決意をした。

安倍さんの生還を縋るような思いで祈っている人からは、激しく非難されるだろう。もともと私のことをよく思っていない人は、ここぞとばかりに私を攻撃するだろう。そんなことも十分に予想したが、私の決意は変わらなかった。

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