【新・日本紀行】ドヤ街、飛田新池のあの西成に大中華街構想|羽田翔

【新・日本紀行】ドヤ街、飛田新池のあの西成に大中華街構想|羽田翔

大阪市の南西部に位置する西成区。宿泊費の安さから外国人バックパッカーが増え、かつては日雇い労働者向けの安宿”ドヤ”もWi-Fiが完備されるなど現代的なホテルへと変化。商店街はシャッターを下ろしている店が目立っていたが、一方で「カラオケ居酒屋」が急増するなど変化する西成を、「大中華街」にしようとする構想が進んでいた……。(初出:月刊『Hanada』2019年6月号。肩書などは当時のママです)


突然、別地区の議員が……

ところが、その西成の土地がここ数年、高騰しているという。

国税庁の発表によれば平成30年、西成(花園南一丁目)の最高路線価は対前年比5.6%増と上昇。また、あいりん地区周辺も軒並み上昇した。その大きな原因に、インバウンドによる需要がある。

先の西成区商店会連盟の村井会長は言う。

「西成地区の昨年のインバウンド数は、40万人とも50万人とも言われています。近年、簡宿さん(簡易宿泊所)が安い宿ということで、バックパッカー相手のホテルに転換していった。それがいまひと段落して、安くて空いている土地を買って普通程度のホテルが建っていっている状況です。要するに、客層が変わってきている」

縷々述べてきたように、西成といえども一本道を隔てればがらりと性格が異なる街になる。その街々には林氏らよりも遥か以前から住み、商いをしている住人たちがいて、それぞれの歴史と事情がある。日本人にはそれがわかっている。が、中国人には関係ないだろう。

そんな独自の色合いを持った街を中華街に変えようという計画である。

村井会長はこう続ける。

「最初に林くんたち(中国人側)と話し合いを持ったのは、2018年の12月。そのときは、今池商店街のKさんと、山王地区の町会長さんと柳本顕先生(前大阪市議)と私と。

彼らは『何か地域活性化のための”中華イベント”的なものをやりたい』と言っていた。具体的には、南海天王寺線の廃線跡地を整備しているのでそこを使ってやりたい、と。

我々としては、『おやりになるのは結構だと思う。しかし、一部は公園として完成しているところだから、収益イベントではなく活性化イベントとしてならいいのではないか』と話しました。これまで林くんたちと話し合う機会はなかったので、これからも地域の活性化のためには、こういう機会を作っていくのはいいのではないかとなったのです。

それというのも、いままで現実問題として、中華カラオケ居酒屋の騒音問題とか営業時間の問題とかゴミ出しとか……運営しているママさんや女の子たちと地域のコミュニケーションがうまく取れていなかったので、お互いの理解を深めることも必要だろうと」

この時点では、前述した朝日新聞のぼんやりとした「中華街をやりたい」という情報以外なく、当然、村井会長らもイベントの企画と相互理解のための会合をもった……という認識だったことがわかる。

それが一変したのは、村井会長と林氏らの話し合いのあと、12月14日の大阪府議会における大阪維新の会・今井豊議員の質問だった。今井議員は現在、大阪維新の会副代表であり、元府議会議長。2017年5月からは、大阪府議会日中友好親善議員連盟会長でもある。

村井会長はこう話す。

「泉南の貝塚の先生(今井議員)が、西成のエリアで中華街を作ってはどうかというような発言をした。それを聞いた市の商業課がびっくりして、僕のほうに連絡してきたんです。僕は大振連(大阪府商店街振興組合連合会)の副理事長もやっているからね。

そのときの議員の発言は、地域の半分くらいの商店街会長がそれを了解している……ということやった。それで、『村井さん、そんなことになってるんですか?』と(市の商業課が)訊いてきたんです。僕もそのとき初めて聞く話だし、地元の商店街の会長の話のなかで、ひと言もそんな話になったこともない。実際、そんな話ならみんなでわあわあ言わなあかん話やから。

しかし、西成の府会議員ならそれなりの理由もあるかもしれんけど、(質問した議員が)貝塚やからな。なんでやねん(笑)、みたいな話になって」

つまり、この府議会の質問時点で林氏ら中国人側と今井議員らは中華街構想の概要を把握していたが、肝心の地元商店街幹部をはじめ、地元住民は蚊帳の外にいた、ということになる。村井会長らにしてみれば、まさに青天の霹靂、寝耳に水といったところだっただろう。

今井豊氏。

日本一の規模の中華街?

今井議員の府議会での質問は、次のようなものだった。

「次に、日本最大といわれる大阪中華街構想について、質問させていただきます。

2025年大阪万博の開催でありますが、この年に大阪中華街構想も具体化すると聞き及んでいます。(中略)

2025年大阪中華街プロジェクトは、中国大阪総領事いわく『今世紀最大と言われる規模の中華街となり、まさに日本一となります』、『新時代の多文化共生社会と地域経済活性化、関西経済の起爆剤にしたい』、『あるいは一流の料理人を大阪中華街に集結させたい』、『あるいはほんまもんの中国料理を食べてもらいたい』というふうに語られています。

万博開催の2025年オープンを目指した大阪中華街プロジェクトの主体は、天王寺に本部を持つ福建省経済文化促進会と、日本国籍を有する華僑・華人団体、そして在阪中国領事館と伺っています」

そして中華街構想について説明したあと、こう述べている。

「既に空き店舗の商店街に公募を始め、半数以上が参画の意思表示とも伺っています。G20サミットまでに、その具体計画も明らかになると言われています。まさに、これも万博効果と考えます」(平成30年12月14日、大阪府定例会本会議)

ここで時系列を整理してみよう。

林氏らは約2年前に中華街構想を思いつき、華商会を立ち上げて準備を整えていた。そして、与党の重鎮であり、大阪府議会日中友好親善議員連盟会長でもある今井議員にも府議会前の・根回し・を済ませていた、ということになる。そして2018年12月には村井会長らと接触し、同月に今井議員の府議会での質問があった。

一方、地元商店会側は、今井議員の質問がなされるまで具体的な中華街構想の話は聞いていなかった。さらには、2019年2月に”新年会”に出たつもりが、それは開発委員会の結成式で、構想のパンフレットまで出来上がっている周到な準備を知った……。

林氏は、今井議員の府議会での質問に関してはこう述べた。

「僕は政治のことはわからない。だから(知己の)李総領事から今井さんに相談してもらった」

今井議員は事情を次のように説明する。まず、中華街構想自体について。

「(中華街構想を知ったのは)昨年(2018)11月頃だったと思います。僕だけではなく、日中西日本大会(2019年1月)のオオサカニューオオタニホテルの準備会の席上、総領事から資料にもとづき説明、ガイドライン的なものがありました。数十人の関係者が聞いていたと思います」

また、「商店街の半数以上が中華街構想に参画」という件については、

「情報は中国総領事から伺いました。その後、華商会の方からも伺いました」

この「商店街の半数以上が参画」という件は、村井会長の話によれば事実ではない。

取材を進めていくと、村井会長らと林氏らには、話の進め方やスピード、中華街構想に関する認識に大きな違いがあること、そして李総領事が積極的に関与していることがわかる。

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