「日本最大の中華街に!」
林氏らが進める計画の概要は、「大阪中華街プロジェクト企画書」というパンフレットに詳しい。
「大阪中華街開発委員会」が作っているプレゼン資料といった趣きの28頁からなるもので、開発委員会は住所を林氏の「華商会」に置いている。
表紙には「大阪中華街(北門)」の完成したイメージが描かれ、「日本国在留外国人・在留中国人の推移」 「大阪中華街来客数と経済効果」などの項目に必要なグラフを添付。「大阪中華街での売り上げ予想 2025年で日本最大の中華街に!」の項目には、2019~2020年、2022年、2025年に分けて、観光客全体、大阪中華街の人数、店舗数、中華街売上の予想をはじいている。
ちなみに2025年の予想店舗数は120、中華街の売上予想は224億円だ。
そして「大阪中華街経済効果算出(2025年)」という項目には、中華街だけでなく、周辺の新世界や天王寺公園、あべのハルカスなどをあわせて「合計 約1000億円規模の経済効果が期待できる」と赤字で書かれている。
また「新しい雇用機会の創出」には、「労働者の街に新しい雇用の機会を創出する」 「大阪中華街建設、店舗、その他サービス関連に新しい雇用のチャンスが生まれる」 「それによって、あいりん地区解消に拍車を掛ける役割を果たす」 「人が集まり、若者が集まり、収入が増え、税収に増え、そして区民に優しい街づくりが出来、子育てしやすい街づくりを提案してく」とある。
他に西成の歴史や地図、大阪中華街完成イメージなどの説明とともに、「李天然中国総領事様からのアドバイス コンセプト」という項目もある。
そこには「大阪中華街の特徴を出す」 「多くの店舗に出店してもらうための魅力的な提案」と書かれており、たとえば「中国各地の有名な中華レストランの参画」や「中国の事を知って頂くために色んな教室を作ること」「西成区の商店街には4つの門が有る。そこの門の名前を付けて、名前を描いてもらう有名な書道家を探すこと」とあり、「注意することは、大阪中華街に出店してくれる人が絶対に損しない様にシステムを検討していかねばならない」。
そしてパンフレットの最後には、中長期の事業推進ロードマップまで用意されている。
北門イメージ。
多くの中国人が協力を
村井会長はこう話す。
「ともかく新しい形態を、ましてや中華街構想をというのやったら、ある程度の店の準備があって然るべきだよね。すでに中華料理の店が、あるいは中華物産店がいくつか(あるとか)……。
しかし、それは一切ない。(カラオケ店以外の)違う業種が出てくることには大賛成です。ただ、準備ができているのかどうかが見えてこない。具体的なグランドデザインが見えないんです。とりあえず提案だけして承認してくれと言われても、それはできない話。今後、もっと具体的な話が出てくるなら話し合いをすることは可能だと思うけどね。
中国の方が本当に西成のことを思って、長いスパンで考えていくというならきちんと話します。その代わり、コンセンサスも含めて時間をかけてね。まずは中華門を先に、とにかく箱がありきというなら、どこまで行っても平行線です」
一方、林氏は具体的な”案”としてこう述べた。
「総領事が管轄しているエリアは名古屋から広島まで。本当に中華街が大阪にできれば僕ら七人(華商会中心メンバー)だけじゃなく、多くの中国人が協力してくれる。資金も数百人は払ってくれる人(中国人)はいる。
それと、これだけは話したい。
これは噂ですが、中華街ができると西成は中国人の街になる……そんな話があるとか。そんなことはないです。どこまで行ってもここは日本、税金も払うのだし。それに中華街構想には日本人にもたくさん、参加してほしいんです」
資金集めなど、中国人ネットワークを利用するためには、中国総領事の存在は大きいようだ。
もっとも、同じ西成に住む中国人社会が中華街構想に向かって一枚岩かと言えば、そうとも言えないようだ。福建省(林氏の出身地)の出身ではないカラオケ店のママはこう話す。
「福建の人、多いからね。でも、それ以外の出身、私なんかにはあまり興味ない。中華街でなくても、お店が儲かればそれでいい」
このような話は、何軒かの中華カラオケ店でも聞いた。少なくとも地元の中国人社会では、中国独自の地方閥が、若干の温度差として存在している面もあるようだ。