財務省は4月20日、財務相の諮問機関である財政制度等審議会の分科会を開き、自民党内で広がる防衛費増額論を「国民の生活や経済、金融の安定があってこそ防衛力が発揮できる」と牽制したと報じられている。
しかし、自衛官として国家の安全保障に任じてきた筆者としては逆に、国家の安全が保障されず今日のウクライナのような状況になれば、国民の生活や経済は成り立っていかない、とあえて主張したい。
「GDP比2%」は国家意志を示す
安倍晋三元首相は、在任中に緊密な間柄だったトランプ前米大統領から、なぜ日本の防衛費は国内総生産(GDP)比で主要国最低レベルなのか、と何回も尋ねられたと述懐している。
また、昨年4月にワシントンで行われたバイデン米大統領との首脳会談で、当時の菅義偉首相は日本の防衛力強化の決意を表明した。
こうした経緯を踏まえ、これまでの中国と北朝鮮に加えて、ウクライナ戦争で顕在化したロシアの脅威に立ち向かう国家意志を同盟国である米国を始め国際社会に示すために、北大西洋条約機構(NATO)加盟諸国が目標とする防衛費のGDP比2%を日本も具現化しようとするのは当然ではないか。
これに対し、河野太郎氏を始めとする歴代の防衛相ですら、初めに2%ありきではなく、必要なものを積み上げていく方式を取るべきだと主張して、防衛費増額の足を引っ張ろうとしている。
防衛費不足で「撃つ弾が無い」
これまで自衛隊は、目に見える抑止力である戦車、護衛艦、戦闘機といった正面装備に限られた防衛予算を充当してきたために、目に見えない継戦能力、抗堪性(基地や施設が敵の攻撃を受けた場合に、被害を局限して生き残り、機能を維持する能力)、研究開発費等に十分な資金を注ぎ込むことができなかった。
「たまに撃つ弾が無いのが玉に傷」と自衛隊員が自己嘲笑気味に揶揄(やゆ)した川柳が示すように、弾薬を購入する予算は後回しにされてきた。また、各国の武官を航空自衛隊の基地に案内したところ、ある国の武官が「自衛隊はすごい。戦闘機の掩体壕(シェルター)がどこにあるのか分からないほど秘匿性に富んでいる」と感心したとされているが、実態は、各国では当然整備されている掩体壕を取得する予算がなかったのである。従って、弾道ミサイルの奇襲攻撃を受ければ、たちどころに戦闘機は破壊されてしまう。
さらには、研究開発費は韓国の半分という始末である。戦いを継続するのに必須な予備自衛官の数も、陸上自衛隊には若干いるが、海上・航空自衛隊に関してはほぼゼロに等しい。
防衛費がGDP比2%になれば、目に見えなくとも戦闘に不可欠なこうした部分が改善されていくのである。(2022.04.25国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)