2011年3月の東京電力福島第一原発事故以降、我が国は太陽光発電を中心とする再生可能エネルギー優先政策を推進してきた。しかし、太陽光や風力発電は変動電源と呼ばれ、出力低下を補うために火力発電所が需給調整をしている。これでは、二酸化炭素の排出を効果的に減らすことはできないし、需給調整がうまくいかないと大停電を引き起こしかねない。3月21~23日、政府が東京電力管内などに「電力需給逼ひっ迫警報」を出したのは、私たちが大停電の危険と隣り合わせであることを思い起こさせた。
火力発電所が地震で損傷
東京電力管内のピーク電力供給力は4500万キロワット(kW)だ。液化天然ガスや石炭火力発電所、水力発電所も含まれるが、何といっても大きいのが総出力1777万kW(電力シェア39%)の太陽光発電である。ちなみに本稿を執筆した3月26日は晴天に恵まれ、1400万kWもの電力を供給した。100万kWの原発14基分である。
福島第一原発事故の前、東京電力は17基の原発を所有していた。事故の時、首都圏が大停電を起こさず、輪番停電でしのげたのは、新潟県の東京電力柏崎刈羽原発から首都圏へ電力が供給されたからである。1777万kWの太陽光発電は曇天でわずか170万kW以下に低下し、早朝と夜間はゼロになる。予備電源として、電力の余裕時にダムに水を汲み上げ、需給逼迫時にその水で発電する揚水発電所もあるが、ダムの水は1日で空になるため、火力発電所が電気を供給しなければ停電になる。
その火力発電所が3月16日、福島県沖を震源とするマグニチュード7.4の地震で被害を受けた。同県の相馬共同火力発電の新地発電所1号機(100万kW)はボイラーと石炭荷揚げ設備の損傷で運転不能になった。東北電力の原町火力発電所(100万kWが2基)も運転停止、株式会社JERAの広野火力発電所6号機(60万kW)も変圧器からの油漏れで早期の運転再開が困難になった。これらの発電所は東京電力管内に電力を供給している。ざっと360万kWが喪失し、都内各地で当日、自動停電が発生した。
寒波で「需給逼迫警報」発令
これら火力発電所の運転停止が続く中で、3月22日に東日本で降雪を伴う寒波の襲来が予想された。そのため経済産業省が初の電力需給逼迫警報を発令し、節電を呼び掛けた。同日、東京電力管内の電力使用量は明け方からどんどん上昇し、供給力の105%まで増加。他電力会社から融通を受けた。午前11時の段階で揚水発電所のダムの貯水率は79%に低下、午後10時には空になる予測であったが、節電で何とか乗り切った。
電力需給の逼迫が日常茶飯事になりかねない状況下では、太陽光発電の不安定を吸収するためにも、柏崎刈羽原発の早期再稼働が必要だ。7基で825万kWの世界最大の原子力発電所である。6、7号機は地下に大きな要塞が建設され、非常電源、注水設備、安全停止用の制御盤、放射性物質を濾こし取るフィルターベントも設置され、航空機テロにも自然災害にも強くなった。既に再稼働した西日本の原発も同じ強靭化対策が施されている。(2022.03.28国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)