中国のウクライナ戦争仲介はあり得ない|櫻井よしこ

中国のウクライナ戦争仲介はあり得ない|櫻井よしこ

絶対的専制君主となりつつある習近平中国国家主席の本質はプーチン氏とそっくりである。プーチン氏の侵略戦争を止めるのに習氏ほど不適切な仲介者はいない。


プーチン・ロシア大統領によるウクライナへの侵略戦争を止める為に、中国を仲介者に推す意見がある。しかし、絶対的専制君主となりつつある習近平中国国家主席の本質はプーチン氏とそっくりである。プーチン氏の侵略戦争を止めるのに習氏ほど不適切な仲介者はいないだろう。

中露両国は、日米欧をはじめとする西側諸国が尊重し、守ろうとする価値観の対極にある。人間の自由、個々人の基本的権利、民主主義などの価値観を中国共産党は一党独裁体制の下で巧妙に弾圧し、今日に至る。彼らの望みは第2次世界大戦後に打ち立てられた国際社会の秩序の根本的変革であり、現行国際法の塗り替えである。

習、プーチン氏は瓜二つ

国際社会はプーチン氏の暴虐に衝撃を受けたが、ウクライナ人とロシア人は「一つの民族」であり、ウクライナは不条理な形でロシアから奪われたと主張するプーチン氏の論文は昨年7月に発表されていた。ボリシェビキ革命によって、不当に奪われたウクライナを取り戻すのがロシアの役割だという主張を、21世紀の現代の価値観への信頼から、人類が過去に戻るはずはないと楽観的にとらえ、プーチン氏の言葉を重視しなかったのが西側である。

プーチン氏が隠すことなくその意志を公開してきたのと同様に、習氏もその考えを公開してきた。習氏は2017年10月、第19回中国共産党大会で、中華人民共和国建国100年に当たる2049年には、中華民族は世界諸民族の中にそびえ立つと決意表明した。そのとき世界秩序の基礎となるのは中国共産党の価値観だと明言した。

台湾統一も絶対に譲らないと、習氏は中国共産党の長年の野望を繰り返し表明してきた。台湾の完全なる統一こそ中国共産党の歴史的使命だとし、2019年1月には必要なら軍事力使用も否定しないと述べた。2013年には「核の先制不使用」の表現を国防白書から削った。「警報即発射」の戦略思考を論議することで、核の先制攻撃を示唆した中国は、この点においてもロシアとそっくりだ。

習氏もプーチン氏も、日本や西欧諸国によって不当に略奪されてきたという歴史に対する恨みを抱く。両氏はそれぞれ大ロシア、大中華民族の下に各民族を包摂し、呑み込み、ロシア化、中華化を図ろうと考えている。

両氏共に明確な意志表示をしているのである。彼らの言葉を、いまこれ以上ないほどに真剣に受けとめ、対策を講じるときだ。

ロシアより狡猾な国

中露の違いは、その狡猾さの度合いである。中国はロシアよりはるかに巧みで手強い国だ。ウイグル人のケースにみられるように、中国によるジェノサイドは国際社会の目が届かない閉ざされた空間で行われる。チベット人、モンゴル人も、民主化を求める中国人も、同様に弾圧されてきた。中国を国際平和実現の仲介者に仕立てるほど危ういことはない。むしろ中国の脅威に備えるべきだ。(2022.03.23国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)

関連する投稿


日本人宇宙飛行士、月に行く|和田政宗

日本人宇宙飛行士、月に行く|和田政宗

今年の政治における最大のニュースは、10月の衆院選での与党過半数割れであると思う。自民党にとって厳しい結果であるばかりか、これによる日本の政治の先行きへの不安や、日本の昨年の名目GDPが世界第4位に落ちたことから、経済面においても日本の将来に悲観的な観測をお持ちの方がいらっしゃると思う。「先行きは暗い」とおっしゃる方も多くいる。一方で、今年決定したことの中では、将来の日本にとても希望が持てるものが含まれている――。


トランプの真意とハリスの本性|【ほぼトラ通信4】石井陽子

トランプの真意とハリスの本性|【ほぼトラ通信4】石井陽子

「交渉のプロ」トランプの政治を“専門家”もメディアも全く理解できていない。トランプの「株価暴落」「カマラ・クラッシュ」予言が的中!狂人を装うトランプの真意とは? そして、カマラ・ハリスの本当の恐ろしさを誰も伝えていない。


習近平「チベット抹殺政策」と失望!岸田総理|石井陽子

習近平「チベット抹殺政策」と失望!岸田総理|石井陽子

すぐ隣の国でこれほどの非道が今もなお行なわれているのに、なぜ日本のメディアは全く報じず、政府・外務省も沈黙を貫くのか。公約を簡単に反故にした岸田総理に問う!


中国、頼清徳新総統に早くも圧力! 中国が描く台湾侵略シナリオ|和田政宗

中国、頼清徳新総統に早くも圧力! 中国が描く台湾侵略シナリオ|和田政宗

頼清徳新総統の演説は極めて温和で理知的な内容であったが、5月23日、中国による台湾周辺海域全域での軍事演習開始により、事態は一気に緊迫し始めた――。


全米「反イスラエルデモ」の真実―トランプ、動く! 【ほぼトラ通信3】|石井陽子

全米「反イスラエルデモ」の真実―トランプ、動く! 【ほぼトラ通信3】|石井陽子

全米に広がる「反イスラエルデモ」は周到に準備されていた――資金源となった中国在住の実業家やBLM運動との繋がりなど、メディア報道が真実を伝えない中、次期米大統領最有力者のあの男が動いた!


最新の投稿


兵庫県の闇「齋藤知事vs自治労」をなぜ報じない?【弁護士・徳永信一】

兵庫県の闇「齋藤知事vs自治労」をなぜ報じない?【弁護士・徳永信一】

月刊Hanada 公式YouTubeチャンネルに投稿した『兵庫県の闇「齋藤知事vs自治労」をなぜ報じない?【弁護士・徳永信一】』の内容をAIを使って要約・紹介。


なぜ自衛官が集まらないか 元陸幕長と『こんなにひどい自衛隊生活』著者が激突大闘論!|岡部俊哉×小笠原理恵【2025年3月号】

なぜ自衛官が集まらないか 元陸幕長と『こんなにひどい自衛隊生活』著者が激突大闘論!|岡部俊哉×小笠原理恵【2025年3月号】

月刊Hanada2025年3月号に掲載の『なぜ自衛官が集まらないか 元陸幕長と『こんなにひどい自衛隊生活』著者が激突大闘論!|岡部俊哉×小笠原理恵【2025年3月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


【私のなかの西村賢太 第二弾】バカヤロウ、コノヤロウ!|小林麻衣子【2025年2月号】

【私のなかの西村賢太 第二弾】バカヤロウ、コノヤロウ!|小林麻衣子【2025年2月号】

月刊Hanada2025年2月号に掲載の『【私のなかの西村賢太 第二弾】バカヤロウ、コノヤロウ!|小林麻衣子【2025年2月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


【スクープ!】内部告発 れいわ新選組|榎田信衛門【2025年3月号】

【スクープ!】内部告発 れいわ新選組|榎田信衛門【2025年3月号】

月刊Hanada2025年3月号に掲載の『【スクープ!】内部告発 れいわ新選組|榎田信衛門【2025年3月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


【今週のサンモニ】イーロン・マスクが「民主主義を破壊」する?|藤原かずえ

【今週のサンモニ】イーロン・マスクが「民主主義を破壊」する?|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。