岸田親中政権が嵌った「罠」|門田隆将

岸田親中政権が嵌った「罠」|門田隆将

親中なのではないか、という懸念が消えない岸田政権だったが、そこに“決定的なニュース”が……。


所信表明で「台湾」文言を拒否

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ある意味、それは“決定的なニュース”といえるだろう。2021年12月6日、FNNプライムオンラインが臨時国会での岸田首相の所信表明演説に対して岸信夫防衛相との間で興味深い攻防があったことを配信したのだ。
 
この日、岸田首相は「近隣国との間でも国益に基づき、この地域の平和と安定を目指して、確固たる外交を展開していく」との所信を表明した。だが演説原稿の作成段階で、岸防衛相から緊迫する東アジア情勢に言及するよう「要請があった」というのである。
 
具体的には「中国には主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求め、建設的かつ安定的な関係の構築を目指す」との一文の後に、「台湾海峡の平和と安定は、わが国の安全保障と分けて考えることはできない。両岸関係の平和的な解決を求める」との文言を加えるよう官邸側に求めたのだ。
 
菅義偉前首相が2021年4月、バイデン米大統領との間で初めて「台湾海峡の平和と安定」で一致し、共同声明に「両岸問題の平和的解決を促す」と明記したことは記憶に新しい。当然、政権が代わっても、日本はこれを重視し、表明し続けるべきものである。
 
そのため、岸防衛相は「台湾をめぐる情勢は安全保障にとって極めて重要で、国民や国際社会の関心も高いという事実や政府としての姿勢を所信表明演説で、国民にわかりやすく伝えるべきです」と主張したのだ。しかし、岸田官邸は「過去に台湾について文言が入れられたことはない」と要請を拒否。結果的に所信表明に盛り込まれることはなかった。
 
防衛省の関係者に改めて問うと、「このことに岸田政権の対中姿勢がすべて表われています」との見解が返ってきた。安倍、そして菅政権で、台湾海峡の平和と安定を求める姿勢は、日米同盟強化の方針も相俟って、着実に理解され、重視されていった。だが岸田政権には、その基本が通じないのである。
 
あり得ない「林芳正外相人事」以降、もはや岸田政権の度を過ぎた親中ぶりは取り繕いようもなくなっている。人権や人命を守るために自由主義圏が連帯しようという時に、岸田首相は「口先」だけで、何もしない。
 

中国への危機認識の欠如

12月11日には、読売が政府は北京冬季五輪に東京オリパラ組織委員会の橋本聖子会長らを出席させる意向だと報じた。国会議員でもあり、組織委員会のトップである橋本氏の出席は、中国へのおもねり以外の何物でもない。
「ああ、岸田氏の“独自の対応”とはこれだったんだ」と永田町は溜息だ。すでに米国には「岸田政権は米国か中国かの二股外交なのか」との疑念が生じている。不信感は、日を追うごとに増していくだろう。
 
もともと岸田・宏池会政権ができる際に専門家の間で懸念されていたのは「中国」だった。一九七二年九月、田中角栄首相・大平正芳外相のコンビで成し遂げた日中国交正常化から半世紀。田中派(注・現在は茂木派=平成研)と宏池会(注・大平は第三代会長)は今も中国との関係が極めて深い。

中国はこの2つの派閥さえ抑えておけば、日本から湯水のごとくODAが投入されることを熟知しており、両派にあらゆる便宜を図ってきた歴史がある。
 
ODA3兆円、つまり日本人の税金は結局、中国共産党が世界の覇権を奪るための元手となったのである。中国のインフラを整えるために、ゼネコンをはじめ日本の大企業が中国で開発や建設を手掛け、それらを口利きする両派の政治家には、代々、多くの利権が生まれていたことは言うまでもない。
 
岸田政権発足時の懸念は現実のものとなった。香港の人権弾圧と、ウイグルジェノサイドで自由主義圏を完全に敵にまわした中国に対して、民主主義国が「いま中国を止めないと世界は大変なことになる」との認識と危機感を共有しているのに、岸田政権にはそれが「ない」のである。
 
テニスのダブルスで世界ランク1位になった彭帥さんのレイプ告発と失踪問題も相俟って、追い詰められた中国。世界中で必死の工作を展開中だが、かつて利権に染まり、さまざまな点で“面倒”を見てもらった政治家たちは今こそ「中国さま」の意向に添わなければならないのだ。だが、国民からみれば、中国の罠に嵌り、その走狗となった政治家ほど醜悪なものはない。
 
11月18日、中国の公式シンクタンク・社会科学院日本研究所の研究員が台湾問題に日本が軍事介入する可能性を分析し、警戒を訴える異例の論文を発表した。その中で、特に注意すべき人物として「安倍晋三元首相と弟の岸信夫防衛相」の名が挙げられた。
 
人々の「命」と「人権」のために、誰が、どんなことをやってくれるのか。私たちは「中国」というキーワードをもとに、そのための政治家を選ばなければ、子や孫の時代にとんでもない事態を招くことになる。

(初出:月刊『Hanada』2022年2月号)

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