「ウイグル、チベット、モンゴル民族、香港など、人権等を巡る諸問題について、主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求めます」(自民党総裁としての公約)、「私の内閣では、人権をはじめとして普遍的価値を守り抜く」(12月13日、衆院予算委員会)、「深刻な人権状況にしっかり声を上げていきます」(民主主義サミット)。
いずれも岸田文雄首相が内外に向けて発信した言葉だ。一連の美しい発言に基づけば、日本は米国、英国、オーストラリア、カナダなどと共に北京冬季五輪の外交的ボイコットを明言しなければならない。
岸田首相の意志が見えない
中国共産党はそのウイグル人、モンゴル人、チベット人の人権弾圧政策をジェノサイドだとして、国際社会に警告され難詰されたにも拘わらず、事態は改善されていない。逆に監視体制は強化され、中国共産党の魔の手は海外にまで及ぶ。わが国で働き、学ぶ前述の三民族の人々を中国共産党工作員は恒常的に監視し、恫喝する。中国にいる家族を人質にして密告を強いる。わが国の国民も少なくとも7人が正当な理由を示されずに中国で逮捕され長年拘留されている。
人権蹂躙に加えて軍事力による現状変更の試みも続く。尖閣諸島のわが国海域には中国の武装公船4隻がほぼ常駐している。中国海軍の艦隊がロシアの艦隊と共にわが国を一周し、挑戦的な軍事訓練を展開した。北京五輪への対応ではこうした中国の振る舞い全体を考慮するのは当然だ。
五輪を前にして、日本は自由と民主、国際法擁護の陣営の強力な一員であることを力強く宣言すべきだ。中国の蛮行に、価値観を共有する国々と連携して立ち向かうときだ。
にも拘わらず、岸田政権の意志は極めてわかりにくい。12月13日に至っても国会で岸田首相は「総合的に判断していく」としか語らなかった。
問われる日本の存在意義
中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報は、日本の政治家は中国への「口先攻撃」で満足することしかできず、「攻撃的行動を取る勇気は絶対にない」と断じた。岸田政権は、その口先攻撃さえできないのである。五輪対応で遅すぎる決定は、決定しないのと同じだ。中国に気兼ねして日本国は大事な価値観を守るための意志決定もできないのか。
日本の価値観、国益のおよそ全てに逆行する中国に、いま、明確に異義を唱えずして、日本の存在価値はないだろう。人間を大事にし、国際ルールを守るわが国の国柄にもっと自信を持て。日米関係を強化し、米欧諸国と価値観を共有せよ。数世紀に一度のこの大きな戦いで旗幟きしを鮮明にし、中華帝国の価値観を否定せよ。(2021.12.13国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)