岸田文雄首相は11月2日、英グラスゴーで開催された国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)に出席し、アジアなどの脱炭素化に最大100億ドル(約1兆1000億円)の追加支援を表明した。しかし動画を見る限り、スピーチを行った会場は閑散としていた。会議ではむしろ「脱石炭」が議論の焦点になり、40カ国余りが合意したが、太陽光や風力発電などで効果的に二酸化炭素(CO2)の排出削減に成功した先進国は存在せず、脱石炭の実現は困難が予想される。COPは転換点を迎えたと思われる。
日本が誇る低炭素石炭火力技術
岸田首相は、アジアにおける脱炭素化のリーダーシップを取ると表明したが、2030年度の温暖化ガス排出量を2013年度比46%削減する目標には言及せず、水素やアンモニアを活用してカーボンニュートラルを達成すると強調した。しかし、日本のエネルギー基本計画で2030年までに水素やアンモニアが全体に占める割合はたかだか1%だ。
COP26では、最大の温暖化ガス排出国である中国の習近平国家主席は出席せず、メッセージを寄せただけだった。ロシアのプーチン大統領も同じ。現在、アジア地域で建設中の石炭火力発電所は200カ所に迫り、インドで28カ所、中国で95カ所、インドネシアで23カ所に上る。これら新規の石炭火力発電所は今後何十年もCO2を排出し続ける。
2020年の世界の電力供給の35%強が石炭火力発電によるものだった。我が国には、従来の石炭火力発電よりも17%もCO2排出量が少ない超々臨界圧石炭火力発電や、20%も減らせる石炭ガス化発電(IGCC)の技術がある。世界の電力供給の35%を占める石炭火力のCO2排出量を20%削減すれば、世界全体の排出量を7%減らすことができる。我が国のCO2の排出割合は世界の3.5%に過ぎない。これを46%減らしても、1.6%の削減にとどまる。それをはるかに上回る世界貢献ができる高性能の石炭火力発電技術の活用こそ、岸田首相のアジアにおけるリーダーシップの発揮となろう。
仏が原子力回帰を主導
COP26では、脱原発のドイツの存在感がほとんど無かった。メルケル首相の長期政権時代に太陽光、風力、バイオマスなどの再生可能エネルギーに注力し、2020年には再エネ比率が46%に達したが、1キロワットアワー(kWh)の発電のため排出するCO2は485グラムで、わが国の540グラムと大差がない。太陽光や風力発電は、気象による変動分を火力発電で補完しているため、火力発電を減らせないのだ。
フランスは、77%を占める原子力発電比率を2025年までに50%に減らす計画を撤回し、原子力回帰に舵を切った。COP26議長国の英国も原子力エネルギーの拡大を10月に決定し、フランスのEDFエネルギー社の原発を多数導入する。
11月2日にはルーマニアが、ヨハニス大統領と米国のケリー気候変動担当大統領特使による協議の結果、米国製の小型モジュール原子炉(SMR)を2028年までに導入すると発表した。原子力発電は日本が世界に貢献できる分野でもある。「原子力はずば抜けて優れた気候変動の解決策」(米紙ウォール・ストリート・ジャーナル)なのである。(2021.11.08国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)