カスタマイズされることに慣れてしまった結果……
本誌『Hanada』の愛読者の多くにとって併売誌であろう二大週刊誌が、独特のカラーリングと、雁首並べるという言葉がどうしても思い浮かんでしまうモノクロの顔写真でおなじみの電車内の中吊り広告の出稿を終えました。
時代の終わりと言えばそれまでですが、これでますます電車の中では、読むものがスマートフォンばかりになってしまい、首が前傾し巻き肩になってしまうのはもう止められそうにありません。
スマートフォン以前、本や新聞を読めない程度の混み具合の電車内では、そこから何かを得ようとか、学ぼうとかいった意欲はさらさらなく、ただただ視神経を文字で刺激していたい類いの人間にとって、新聞広告だけが癒やしでした。ですから、いつからだったか、メディアライナー、いわゆる広告貸切電車に乗り合わせてしまったときには軽いいらだちを感じたものです。
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その渇望は、ポジティブな効果を期待して高いお金を払ってこの車両の広告枠を独占している企業への恨みも生み出しました。
そのいらだち、恨みがましい気持ちは、ネット時代になってより安産化傾向にあります。手元のスマホに没頭していれば広告を見ずに済むというメリットはあるのですが、しかし、スマホなどに出てくる広告は何割かが私にカスタマイズされていて、そのカスタマイズが余計なお世話でいらだつこともあるとはいえ、しかし、「これは私には不要な商品です」「というか見たくもありません」と突き放したくなる広告に追いかけられるよりはまだマシです。
カスタマイズされることにすっかり慣れた私は、私以外のものにカスタマイズされた広告に対して、また、即断即決をためらわなくなった私は執拗に繰り返されるものに対して、極めて不寛容になっているのです。
広告を出す場所もタイミングも悪すぎる
ちょっとしたディストピアに見える。(アルファドライブ麻生要一社長のTwitterより。現在は削除)
ことほどかように心が縮小化傾向にある中で、職場の最寄り駅で巨大な通路を歩かされているときに、目に入るすべてのデジタルサイネージにゴチックで綴られた「今日の仕事は、楽しみですか。」という言葉が心に不法侵入してきたら、やっぱり激怒しちゃうだろうなと思います。
その場所がよりによって、勤労者による東を目指す無言の隊列が見られる品川駅港南口で、その時間帯がよりによって、祝日のない月の、緊急事態宣言解除後の、月曜というタイミングあればなおさらです。
もっとスタートアップが押し合いへし合いしているようなエリアであれば「いい広告!」と話題にもなったかもしれませんが、でもそういう人たちって葉山あたりでテレワークしてそうだというのは私の偏見です。
なお、この広告をツイッターで宣伝していたのは広告主の経営層の一人だった訳ですが、炎上即大喜利後に広告の取り下げを表明し、同時に、ご自身のプロフィールからアミューズの社外取締役であることを削除されました。
で、アミューズのサイトを見てみたら、「人間に戻ろう。」などという、なんでこんなこと言われなきゃならないのと振り払いたくなるようなゴチが目に飛び込んできて憂鬱です。