缶チューハイ市場を席捲するストロング系
経済か衛生か、金か命か、みたいな話が続いて10カ月近く。今年もお世話になりました。
時機を逸した感はありますが、触れずに来てしまった今年を象徴する話題を取り上げて、しめくくりとしたく存じます。
コンビニでもスーパーでも、最近はビールの品揃えがいまひとつですね。代わりに幅をきかせているのがビールではないビールに似た飲み物、そして、いわゆるストロング系チューハイです。
たった二本で嫁さんになれよと言ってしまうカンチューハイは以前からありましたが、2009年にサントリーがアルコール度数8%の『-196℃ ストロングゼロ』を発売したのを契機に、飲みやすく、缶入りゆえに開けたら飲みきってしまいたくなる、アルコール度数の高い、そしてビールよりもずっと安い、そんな飲み物が各店の棚を席巻するようになりました。
7%以上をストロング系と呼ぶそうで、また、カシュッと開けたら割ったり温めたりせずにそのまま飲めるタイプをレディトゥドリンク、RTDと呼ぶそうですよ。
ストロング系RTD躍進のきっかけは、飲酒運転の取り締まりと罰則強化による家飲み増加とされていますが、さぞかし売れたのでしょうね。
いつの間にかストゼロのアルコール度数は9%になり、アルコール量としては500mlでテキーラ3.5ショットに並び、キリンは既存ブランドの『氷結』に“ストロング”を加え、2018年には『キリン・ザ・ストロング』を商品化。
アサヒも『もぎたてストロング』で、サッポロもストロングこそ名乗らねど『99・99』で同じ土俵に立っています。古いデータで恐縮ですが、酒税法が改正された16年には、このストロング系が缶チューハイ市場の4割を占めていました。
値段は安いが見た目も中身も「ストロング」。
我慢ができりゃ世話はない
しまいには18年、サンガリアというメーカーが12%のモノをつくり、ローソンやポプラで限定発売するまでになりました。このときの、ローソンの商品開発担当者のインタビューはまだネットに漂っています。
ストロング系を求めるのは「率直に言うと、すぐに酔いたい男性です」、2本買う人が多いと語り、アルコール依存症の人が増えるのではと質問されて、「販売元としてちゃんとお答えするならば、個人でちゃんと消費量を抑えていただくしかありません」 「あくまで選択肢のひとつとして提案しているつもりですが……推奨する量は500ml缶1本。もちろん、毎日何本も飲むことはオススメできません」と。
それができれば依存症ではありませんね。
9%を2本でテキーラ7ショットですから、12%だと9ショットちょっと。飲まずにいられない病の人は嬉しいでしょうし、並みの人なら飲みきれないはずが、口当たりの良さでスルスル入って、そんな状態で求婚されたら、俵万智じゃなくたって一言言いたくなりますわ。
ああ、そういえばストロングゼロの社長って、このコンビニの社長だったことがあったっけな。
その後、この12%のストロングは“好評のうちに”終売。で、コロナ禍で家飲みが加速し、医師がはっきりとストロング系の危険性を指摘するようになって、第五のビールメーカー、オリオンが、アルコール依存症を増やすことへの危惧からストロング系の販売休止を決めました。
目先の売上げより国民の健康、金より命というわけです。ああ、コロナとSDGsの時代にふさわしい企業判断ですね。社長は元P&G、わかってらっしゃる。
お酒は文化だそうですね。それに反対する立場ではありません。でも、限度がありやしませんか。
這ってでもの出社もハンコも文化だったけれど、命の危険性の前には、復活の可能性を十分に残しつつも山が動きそうな予感はするではありませんか。
少なくない人が家飲みせざるをえない環境にあるいまを乗り越えて、ストロング系を生んでしまった国をサステナブルにするためにも、根付いた文化を守るためにも、勇気ある撤退が必要ではないでしょうか。