「ハイブリッド戦」の背景を追う
自戒を込めなければならないが、新しい専門用語を知ると、何だか知った気になって多用しがちである。例えば安全保障の分野なら、「サラミ・スライス戦略」や「エコノミック・ステイトクラフト(経済安全保障)」などがそれで、ついつい訳知り顔で使ってしまい、何もかもがそれで説明がつくような気がして頻繁に口にし、ひいてはバズワード化しかねない。
「ハイブリッド戦」もその一つかもしれない。ロシアが2014年にウクライナ介入時に使ったとされる手法で、本連載の第一回でもロシアの「ハイブリッド戦」の一端を扱った書籍を紹介した(下記リンク参照)。いわば「旬」のテーマなのだ。
平時と有事の区別なく、また軍事・非軍事的手段の区別もなく、自らの国益にかなう状態に近づけようとする手法――といったところだが、では実際にロシアはこうした「ハイブリッド戦」をどのように構想し、国家戦略に組み込んでいるのかまではなかなか理解が及ばない。せっかく「ハイブリッド戦」について考えるなら、ぜひそうした背景も抑えておきたいところ。
そうした部分まで深くダイブできるのが、小泉悠『現代ロシアの軍事戦略』(ちくま新書)だ。「こんなに濃い内容が新書で!?」と驚く圧倒的ボリューム感で、ウクライナ介入時の実態を改めて深く掘り下げたうえで、さらにその背景にある「ロシア側から見える国際社会の景色」にまで触れられる良書だ。
【読書亡羊】やっぱりロシアは「おそロシア」 | Hanadaプラス
https://hanada-plus.jp/articles/713その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする週末書評。