私は1963年から88年まで25年間、海軍将校および文民として米国防総省で働いた。たまたま私の公務員生活は、冷戦の最後の25年間とほぼ重なった。とりわけ75年から85年まで私が非常に強く懸念したのは、ソ連が保有する大量の通常兵器と戦略核兵器だった。しかし、米国を中心とする民主主義同盟諸国に脅威を及ぼしたソ連は突然崩壊した。
私がそのころ心配したのは、太平洋地域における米国の最も重要な同盟国で、高度の技術力と対潜水艦能力、高性能のF15戦闘機隊を保有する日本が、冷戦から「熱い戦争」になった場合に米国と共に戦うかどうかであった。幸いなことに、ソ連は日本が米国に従い、共に戦うと信じていた。その結果、太平洋で日米連合軍を打ち破ることはできないとソ連は考えた。結果的に抑止がうまく働き、米国と日本は太平洋での冷戦に勝利を収めた。
対中抑止に必要な米軍戦闘支援
ソ連の解体時点で、中国の軍事力はまだ比較的弱かった。しかし、過去25年間に中国は近代的な軍事大国となり、日米両国が中国をうまく抑止できるのか、心配になる。88年にバンダービルト大学に創設した研究センターを今月末で閉鎖し、引退するのに当たって、私は考察すべき三つの大きな問題を指摘したい。
第一に、中国が南シナ海への出入りを武力で阻止したり、台湾を武力攻撃したりする場合に、米国は軍事力を行使するだろうか。行使しなければ、米国が太平洋国家として君臨した時代は終わりへ向かい、日米同盟は意味を失う。
第二の問題は、米国が中国と戦うとして、誰が米国に加勢するか、である。もし日本が加勢することを選ぶなら、中国を抑止する日米連合の力が優位に立つ可能性がある。しかし、日本の戦闘支援がなければ、抑止に失敗する公算が大きい。
習主席の本質を見極めよ
第三の問題は、習近平中国国家主席はいかなる人物か、である。スターリンや毛沢東と比べても強い指導者なのか。それとも、もろい利己的な権力亡者なのか。日米連合軍と対決することで祖国を大きな危険にさらすのか。あるいは、そうすることを国内のライバルたちによって阻止されるのか。とりわけ日米がオーストラリア、インドなど他の域内民主主義国の支援をうまく得られれば、中国にしても4カ国連合(クアッド)の抑止力に打ち勝つことは難しいだろう。
私は1941年生まれなので、日米が第2次世界大戦で互いに戦い、後に強力な同盟国になった歳月をよく振り返る。日米が中国の覇権を阻止し、インド太平洋地域の抑止力を維持するために、必要なら共に戦う緊密な同盟国であり続けるなら、そしてそのような同盟国であり続ける場合に限って、日米は平和裏に勝利を収め、21世紀がだいぶ進んでも抑止力を維持できると私は確信している。(2021.07.26 国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)