【偽善者列伝】空理空論の反戦騒ぎ――加藤典洋の言説|加地伸行

【偽善者列伝】空理空論の反戦騒ぎ――加藤典洋の言説|加地伸行

加地伸行「マスコミ偽造者列伝ー建前を言いつのる人々」


空理空論の反戦騒ぎ――加藤典洋の言説

マスコミ偽善者列伝 建て前を言いつのる人々

話題沸騰、amazon総合1位獲得! 5万部突破!


加地伸行『マスコミ偽善者列伝 建て前を言いつのる人々』より、辛口コラムをご紹介!

AKB48「僕たちは戦わない」に衝撃

老生、初詣は近くの小神社。そのあとは、することもなく、行くところもなく、平平凡凡にテレビを観ていた。老人の生活である。

テレビはどれもこれもただガチャガチャ騒々しく玩具箱をひっくりかえしたようなさま。その中で、ふっとAKB48の歌が出てきた。もちろん、手を振り足を振りしての御出座し。

その歌詞を聞いて驚いた。自分たちは戦わない、愛を信じてるから、と来た。

反戦歌である。要するに〈行動として〉戦わない。その代り、相手に対する愛を信じている、つまり愛があるので、愛で相手をやさしく包みこむ、と歌う。

愚かな話である。そんな高尚なことができるのは、神、それも一神教における全知全能の神のみである。その神になろうというのである。短いスカートで跳ねまわって踊っているあの小娘集団が。

これ以上のギャグはない。呵呵大笑。なら、こうも言えよう、次々と。

自分たちは戦わない。生命が惜しいから。

自分たちは戦わない。バイトがあるから。

自分たちは戦わない。デートがあるから。

自分たちは戦わない。飲み会があるから。

自分たちは戦わない。試験があるから。

その程度の〈愛があるから〉である。

〈愛があるから〉の空理空論

そうした空理空論が世に蔓延っている。例えば、平成27年のこと、NPO法人「難民支援協会」など難民支援に関わる14団体が、9月28日、シリア難民を国内に受け入れるよう安倍晋三首相宛の申入れ書を政府に出した(毎日新聞9月29日)。

冗談ではない。日本人にして日々の生活が大変という人々がたくさんいる。そうした人々の救済はさておき、外国の難民を受け入れろだと? 本末顚倒である。おそらくこういう理屈であろう、日本は豊かだから、難民受け入れできるでしょう、私たちには〈愛があるから〉。

舞台は飛んで大阪。卒業式における国歌、君が代の起立斉唱を拒んだ大阪府立高校教員に対する減給の懲戒処分の取消しならびに慰謝料200万円を府に求めた裁判の判決があった。その請求は棄却と。すなわち敗訴である(毎日新聞27年12月22日付)。

その記事中、原告の奥野某はこう言う。起立斉唱を拒んだのはクリスチャンとしての信仰が第一原因と。

その詳細はこの記事では分らないが、府立高校教員中、クリスチャンは彼1人ではない。すると、彼からすれば、彼以外のクリスチャン教員はすべて背教徒と言うのか。

しかし、おそらく彼は、AKB48流にこう答えるだろう、他のクリスチャン教員とは戦わない、自分には〈愛があるから〉。結構な話ですね。なら、ついでにこう言ったらどうか、自分を処分した大阪府とは戦わない、自分には〈愛があるから〉と。「汝の敵を愛せよ」とね。

この御都合主義的クリスチャン教員は第二原因としてこう言う、「起立の強制は国民を戦争に駆り立てた戦前の教育につながる」と。爆笑ものの小理屈。これは飲み屋での小話に使える。もし彼がそれで老生に文句をつけてきたとしたら、こう答えよう。あなたとは戦いません。私にはあなたに対する〈愛があるから〉と。

加藤典洋の愚かさ

こうした空理空論の大人版が出てきた。加藤典洋著『戦後入門』をめぐっての著者インタビュー(毎日新聞大阪夕刊27年12月21日)に拠れば「国の交戦権は、これを国連に移譲する」と来た。

愚かさも極まった空理空論。国連安保理事会における大国理事の〈拒否権〉をどのようにしてなくすことができるのか。絶対にできない。国連軍出動が特定国家の拒否権で左右されている現実に対する具体案がなくて何を言っている。そうか、こう言えばいいか、日本自衛隊を国連に捧げます。愛があるからと。

古人曰く「〔自分は〕耕やす能はずして、黍(きび)粱(大あわ)を欲す。織る能はずして、采裳(美しい衣裳)を喜ぶ」と。

【古典の智恵】

〔自分は〕耕やす能はずして、〔その癖、〕黍粱を欲す。
〔自分は〕織る能はずして、〔その癖、〕采裳を喜ぶ。
『淮南子(えなんじ)』説林訓

月刊Hanada2018年10月号』で「一定不易」を好評連載中!

著者略歴

加地伸行

https://hanada-plus.jp/articles/190

1936年(昭和11年)、大阪に生まれる。1960年、京都大学文学部卒業。高野山大学、名古屋大学、大阪大学、同志社大学を経て、立命館大学フェロー、大阪大学名誉教授、文学博士。専攻、中国哲学史。月刊『Hanada』で「一定不易」を連載中。

関連する投稿


「実子誘拐ビジネス」の闇 ハーグ条約を“殺した”人権派弁護士たち|池田良子

「実子誘拐ビジネス」の闇 ハーグ条約を“殺した”人権派弁護士たち|池田良子

「実子誘拐」告発キャンペーン第2弾!なぜ日本は「子どもの拉致国家」と呼ばれているのか。その裏には、ハーグ条約を“殺した”人権派弁護士たちの暗闘があった――。なぜ人権派は共同養育に反対するのか。子どもの権利をどう考えているのか。海外のケースだけではない。国内でも「実子誘拐」は日常的に行われているのだ。実名告発!誰も触れられなかった禁断の扉がついに開かれる!


山本太郎ファクトチェック|坂井広志

山本太郎ファクトチェック|坂井広志

「空気を読めるから、空気を読まない」。“歩く風評被害”と呼ばれる山本太郎がついに、東京都知事選に立候補。“おもしろい”選挙戦になることは間違いないが、“おもしろい”で本当にいいのだろうか。空気に流されないために、山本太郎の過去の言説をファクトチェック!彼は民主主義の救世主か、それとも……。“ファンタジー・ヤマモトタロウ”の正体とは?


感染爆発回避した日本人の力|櫻井よしこ

感染爆発回避した日本人の力|櫻井よしこ

命令権の発動なしにここまで達成したのは、日本でなければできない立派なことだ。ただウイルスとの闘いはこれからも恐らく長く続くだろう。第2波、第3波の襲来を現体制で乗り切れるのか。わが国の危機対応体制はこのままでよいのか。


三種の武漢ウイルス 「集団免疫」という起死回生|山口敬之

三種の武漢ウイルス 「集団免疫」という起死回生|山口敬之

「安倍政権は死因までも誤魔化しているのだ」。安倍政権のコロナ対応は失敗だったのか。日本はウイルスの抑え込みに最も成功した国であるにもかかわらず、なぜ、支持率は急落したのか。安倍政権の一連の対応を振り返りながら、“集団免疫獲得”の実像に迫る!L型の流入の有無こそが、日米伊の分水嶺となった――。


致死率と死亡率を混同 危機煽るワイドショー|藤原かずえ

致死率と死亡率を混同 危機煽るワイドショー|藤原かずえ

日本は世界の主要国に比べて死亡率が極めて低い。にもかかわらず、日本国民の日本政府への評価が低いのはなぜなのか。ひとつの理由が、常識的な安倍政権のリスク管理をワイドショーがヒステリックに罵倒し、情報弱者をミスリードしたことにある――。新型コロナをめぐる日本政府の一連の対応を、データとロジックで読み解く!日本モデルは成功したのか、それとも――。


最新の投稿


日本でも進む習近平の『目に見えぬ侵略』|クライブ・ハミルトン

日本でも進む習近平の『目に見えぬ侵略』|クライブ・ハミルトン

菅総理に伝えたい習近平の手口。中国の報復を恐れ出版停止が相次いだ禁断の書『目に見えぬ侵略』の著者が緊急警告!中国人による多額の献金、中国のエージェントと化した国会議員――オーストラリアで行われたことは日本でも確実に進行中だ!日本よ、目を醒ませ!


「反原発・親共産」の野党再編|梅澤昇平

「反原発・親共産」の野党再編|梅澤昇平

立憲民主党と国民民主党と野合によって「帰ってきた民主党」が誕生。このあとに来るのは、共産党、社民党などとの国政における選挙協力だ。日本を破滅させる「新・立憲民主党」に国民の支持は到底集まらない。今こそ国民民主党の残留組が日本維新の会と提携するなど新たな改憲勢力を形成すべき時だ!


花田編集長の今日もねこびより|花田紀凱

花田編集長の今日もねこびより|花田紀凱

ねこ好きにはたまらない、新連載がスタート!花田家のねこをほぼ毎日、紹介いたします。第10回は、「階段の手すりでくつろぐKIKI」です。


中国は安全保障上の脅威|岩田清文

中国は安全保障上の脅威|岩田清文

中国に対して「懸念」という段階は過ぎている!米国防総省は9月1日の中国軍事力に関する報告書において、中国海軍の艦艇数は既に米海軍を凌駕したと述べた。このまま米中の軍事バランスが中国有利に推移していけば、中国による尖閣領有の既成事実化は間違いなく阻止できなくなる。


「菅義偉総理」待望論|小川榮太郎

「菅義偉総理」待望論|小川榮太郎

心にぽっかり空いた穴――。安倍総理辞任の報道を受けて、多くの人たちが同じような気持ちになったのではないだろうか。しかし、この国はいつまで“安倍依存症”を続けるつもりなのだろう――。「米中激突」で世界がより不安定になるなか、感傷に浸っている時間はない。6月の時点で「『菅義偉総理』待望論」を打ち上げたのはなぜなのか、その理由がついに明かされる!