なぜ体育会の「根性論」はなくならないのか|山口香

なぜ体育会の「根性論」はなくならないのか|山口香

日本大学アメフト部の問題は、「反則タックル」が発生した試合中の映像もさることながら、会見を開いた際の内田正人前監督の姿勢も、世間を驚かせたのではないでしょうか。 タックルを行なってしまった選手が開いた会見では、「アメフトを嫌いになってしまった」などと述べる姿に同情が集まりましたが、内田前監督の会見に対しては、「監督は悪いと思っていないのではないか」と感じた方も多かったと思います。 ここに、スポーツ指導における根深い問題が隠されています。


選手が一線を越えるとき

世界的に見ても、各競技の指導法は大きく変化しています。たとえば野球の投手に対して、昔は「とにかく黙って走り込め」という指導も認められていました。なぜ走り込みが必要なのかという理由や理屈よりも、「我慢して走り続けることが結果にがる」と言わんばかりでした。

ところがいまの子供たちは、そのような一方的な指導では納得しません。無理に走らせるよりも、「あなたが投げたいボール、スピードを生むには、投げる土台の足腰を鍛える必要がある。そのために、鍛練期であるこの時期には1日数キロ走ることが必要だ」と伝えたほうが効果的です。

昭和世代の人から見れば、何を甘やかしているんだと言われるかもしれません。しかし、このような目標と効果を示したうえでの練習が、以前の盲目的な練習より楽で苦しくないものかといえばそうではないのです。

いまの選手たちは、昔の選手たちよりもずっと厳しい練習をこなしています。頭も使っているし、何が効果的なのかをよく勉強してもいる。科学的な根拠や論理に基づき、練習だけでなく食事や睡眠といった生活スタイルまでを競技に捧げています。むしろそうでなければ、世界とわたり合っていけないからです。

もちろん、勝利への情熱はいつの時代でも、選手の心のなかにあるものです。柔道もそうですが、アメフトなども試合直前からアドレナリンを放出して、相手に全力で向かっていく精神力が必要です。

またどんな競技でも、スポーツはレベルが上がれば上がるほど、反則ギリギリのところを攻めながら勝利をもぎ取る技術と気持ちが必要なのもたしかです。

指導者側だけではありません。競技を見ている側も、特にプロスポーツやメダルのかかる五輪などの試合においては、「ギリギリを攻めろ」 「勝ちをもぎ取りに行け」と言いながら、一方でフェアプレーを望むという矛盾した気持ちを持っているはずです。

アドレナリン全開の選手が、時に一線を越えてしまう場合はあります。ネガティブな支配的圧力だけではなく、ポジティブで熱烈な応援や期待が、選手を「ルールの向こう側」に追いやることもある。このことは観客側も理解しておく必要があるでしょう。

選手が背負わされる「学校ブランド」

今回の日大アメフト部の件で言えば、近年、大学の運動部・体育会は、大学全体のブランディングの主役になっていることが、指導者や選手へのプレッシャーになっている一面も否定できません。

野球やラグビーの早慶戦などは、OBや現役学生が観戦に訪れ、寄付もたくさん集まっている。愛校精神はもちろんですが、やはり応援され、支持されるには「強いチーム」であることも求められます。

五輪などを見ても分かるように、スポーツには人々の心を1つにする求心力がありますから、各大学がブランディングの一環として運動部・体育会に期待するのもよくわかります。

しかし一方で、「絶対に勝たねばならない」 「やらねばならない」 「大学の名前を背負っている」という引くに引けないプレッシャーを、指導者や選手たちに与えている可能性も考慮しなければなりません。このプレッシャーが、スポーツで守らねばならないルールという一線を越えてしまう誘因になっているかもしれないのです。

指導者に必要な客観性

関連する投稿


「みなさまのNHK」ではなく、「俺が偉くなるためのNHK」|和田政宗

「みなさまのNHK」ではなく、「俺が偉くなるためのNHK」|和田政宗

2月20日、NHKの船岡久嗣アナウンサーが、住居侵入の疑いで逮捕された。私は、NHKの事なかれ主義や、組織のいびつな体質がこうした事件の遠因になっていると考える。今回は、これらNHKのおかしな状況について記したい。


「緑なき島」、高額報酬、天下り、はぐらかし続けるNHK|和田政宗

「緑なき島」、高額報酬、天下り、はぐらかし続けるNHK|和田政宗

1月31日に行われた自民党総務部会(NHK予算審議)は大紛糾となった――。NHKは国民の受信料から成り立っている組織である。「経営改革」と言いながら、自らの報酬に手をつけない経営陣がこの世のどこにいるだろうか。


どうしたらオリンピックを開催できるのか|電脳三面記事

どうしたらオリンピックを開催できるのか|電脳三面記事

ビル・ゲイツの妹(という設定)のライターが、ネットで話題になった事を斬りまくる、人気連載「電脳三面記事」。なぜそれでもオリンピックだけは開催できるのか――ちょっと考えてみましょう。皆様の意見もお待ちしております。


嫌味なイチロー|花田紀凱

嫌味なイチロー|花田紀凱

花田編集長の「プチ暴論」第49回


「チームの看板」の痛みを知れ!|花田紀凱

「チームの看板」の痛みを知れ!|花田紀凱

花田編集長の「プチ暴論」第44回


最新の投稿


【読書亡羊】出会い系アプリの利用データが中国の諜報活動を有利にする理由とは  『トラフィッキング・データ――デジタル主権をめぐる米中の攻防』(日本経済新聞出版)

【読書亡羊】出会い系アプリの利用データが中国の諜報活動を有利にする理由とは 『トラフィッキング・データ――デジタル主権をめぐる米中の攻防』(日本経済新聞出版)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【今週のサンモニ】岸田総理訪米を巡るアクロバティックな論点逃避|藤原かずえ

【今週のサンモニ】岸田総理訪米を巡るアクロバティックな論点逃避|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


わが日本保守党|広沢一郎(日本保守党事務局次長)

わが日本保守党|広沢一郎(日本保守党事務局次長)

昨今の政治状況が多くの日本人の心に危機感を抱かせ、「保守」の気持ちが高まっている。いま行動しなければ日本は失われた50年になってしまう。日本を豊かに、強くするため――縁の下の力持ち、日本保守党事務局次長、広沢一郎氏がはじめて綴った秘話。


改正入管法で、不法滞在者を大幅に減らす!|和田政宗

改正入管法で、不法滞在者を大幅に減らす!|和田政宗

参院法務委員会筆頭理事として、改正入管法の早期施行を法務省に働きかけてきた。しかしながら、改正入管法成立前から私に対する事実無根の攻撃が始まった――。


【今週のサンモニ】新生「サンモニ」はやっぱりいつも通り|藤原かずえ

【今週のサンモニ】新生「サンモニ」はやっぱりいつも通り|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。