『月刊Hanada2018年8月号』より転載
スポーツ界の「負の連鎖」
日本大学アメフト部の問題は、「反則タックル」が発生した試合中の映像もさることながら、会見を開いた際の内田正人前監督の姿勢も、世間を驚かせたのではないでしょうか。
タックルを行なってしまった選手が開いた会見では、「アメフトを嫌いになってしまった」などと述べる姿に同情が集まりましたが、内田前監督の会見に対しては、「監督は悪いと思っていないのではないか」と感じた方も多かったと思います。
ここに、スポーツ指導における根深い問題が隠されています。おそらく内田前監督はあの時点においても、「悪気はなかった」と思っていたのでしょう。悪気がないどころか、選手のためを思って一所懸命やったのに、どうしてここまで責められるのか、との思いさえあったのではないでしょうか。
スポーツ指導は、子育てに似ています。子供を虐待する親は、一部の極端な例を除けば、ほとんどは「子供のため、躾だと思ってやっている」と言う。同じように、時にパワハラや高圧的と取れるような指導も、その核にあるのは「選手にもっと成長してほしい。だからこそ厳しく指導するのだ」という思いです。
内田前監督も試合後、「選手が成長してくれればそれでいい」と述べています。タックルをしてしまった選手は優しい性格で、実力はあるのに相手に強く当たれなかったと報じられています。「その部分さえ改善できれば、もっといい選手になれるのに」という思いが、前監督や前コーチにはあったのでしょう。
一般には理解しがたくても、自身は「お前のためにやったんだ、おれが悪者になったって、お前が成長してくれればいいんだ」という思いにウソはない──。そして、子供も選手も、その思いから抜けられない。まさに虐待の構図と同じです。 子供に対する虐待とこのようなスポーツ指導が重なるのは、「負の連鎖が起きる」という点も同様です。