なぜ体育会の「根性論」はなくならないのか|山口香

なぜ体育会の「根性論」はなくならないのか|山口香

日本大学アメフト部の問題は、「反則タックル」が発生した試合中の映像もさることながら、会見を開いた際の内田正人前監督の姿勢も、世間を驚かせたのではないでしょうか。 タックルを行なってしまった選手が開いた会見では、「アメフトを嫌いになってしまった」などと述べる姿に同情が集まりましたが、内田前監督の会見に対しては、「監督は悪いと思っていないのではないか」と感じた方も多かったと思います。 ここに、スポーツ指導における根深い問題が隠されています。


「ど根性」から「喜び」へ

体罰などでもそうですが、指導者側は「指導とパワハラの境目はどこにあるのか」をみ切れていません。日大の問題も、選手が反則にまで及んだためにその指導法に対する疑念の声が上がりましたが、一方で「たしかにそこまで追い詰めるのはどうかと思うが、しかしある程度のプレッシャーや強制も必要じゃないか」という考えもあるでしょう。

このような迷いのなかにいる指導者によく私が話すのは、「説明責任を果たせるかどうか」です。

以前は「文句を言わずに従え」 「口答えするな」式の指導が罷り通っていましたが、これからはそうではありません。選手を「洗脳」し、「支配」するのではなく、原監督の言葉にもあるように、説明で理解を促して、自発的な取り組みを引き出すやり方で結果を残し、その先にブランディングという成果もある方向に、世の中は変わり始めているのです。

分かりやすい例を挙げれば、「『巨人の星』から『キャプテン翼』へ」。「巨人の星」は日本人のもともとの精神に合ったアニメで、父親に殴られ、大リーグ養成ギプスを装着し、時には骨が折れても投げ続けるというど根性ものです。そこには「野球を楽しむ」という精神はなく、ひたすら耐えた先に勝利があるストーリーでした。

一方、「キャプテン翼」は、「ボールは友達」というフレーズに象徴されるように、仲間とのプレーを楽しみながら成長していく。そして練習も勝利も、すべては「自分の喜びである」との価値観が示されています。

耐えた先、山や壁を越えた先にある光明を見出すためにひたすら努力することも、たしかに人生の喜びではあります。率直に言えば、私もそのような価値観を持ってはいます。

しかし、初めから光を集めながら成長していくというモデルもあっていい。そのように考えられるようになれば、選手をとことん追いつめることが指導であるという悪しき慣習は薄れていくのではないでしょうか。

スポーツ界は社会の縮図

多かれ少なかれ、「黙ってやれ」 「口答えするなんて100年早い」との価値観は、スポーツに限らず日本の組織のなかには残っていくでしょう。 根性論についても、戦後日本を牽引してきたのは「モーレツ社員」であり、実際に成果も残してきました。そのような成功体験を否定せよというのは、昭和世代の人たちには酷なことです。

彼らの経験はそれとして認めながら、しかし新しい価値観を持った若者の活躍を邪魔しないよう、認めていく。これこそがダイバーシティの考え方でもあります。自分とは違う多様な考えや価値観を受け入れて新たな才能を見守り、その能力を伸ばしていく姿勢の先にイノベーティブな未来社会が見えてきます。このことはスポーツ界に限らず、日本社会全体で必要なのではないでしょうか。

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