“新冷戦”で「命」が守れない日本人|門田隆将

“新冷戦”で「命」が守れない日本人|門田隆将

ウイルスと共に世界を侵略し、民主主義の本家・米大統領選まで破壊した中国。2021年も、中国の覇権主義は止まらないだろう。このままでは日本が滅びかねない――日本が生き残るための唯一の道とは。


“太平の眠り”から醒めない日本人

大混迷の米大統領選は、私たちに何を教えたのか。12月2日、憲政記念館での「国会に憲法改正論議を求める! 国民集会」に参加した私は、そんなことを考えていた。  

コロナで大打撃のはずの中国が逆にウイルスと共に世界を侵略し、民主主義の本家・米大統領選まで破壊。しかし、全体主義が世界を覆い始めているというのに、日本人は未だに“太平の眠り”から醒めることもない。  

このままでは日本は滅ぶ──そんなことを考えていたらスピーチの順番が巡ってきた。私は、そのままこんな話をさせてもらった。

「昨日、2030年まで中国やロシアの巨大な脅威に対する同盟国の行動指針を提案する『NATO(北大西洋条約機構)2030』が発表された。そこで最も多くのページを割いて強調されていたのは中国の脅威だ」

「NATOはソ連の軍事的脅威と対峙し、集団的自衛権を使って抑止力を強化した。加盟の一国にでも攻撃してきたら、全体への攻撃とみなし、全体で反撃するというものだ。NATOはこの抑止力によってソ連の介入と攻撃を未然に防ぎ、国民の命を守ってきた」

「冷戦が終わって中国の台頭で“新冷戦時代”となった。2049年までに世界の覇権を奪取すると広言する中国によって“最前線”はヨーロッパから東アジアに移った。しかし、私たちは未だに“アジア版NATO”である環太平洋・インド洋条約機構さえ持っていない。それは日本が憲法の制約で未だに集団的自衛権を保有できないからだ」

「私たち、そして子や孫、その先……国民の命を守るために憲法改正で集団的自衛権を獲得し、抑止力を高めて中国の“力による現状変更”を止めなければならない。日・米・豪・印のクアッドを基軸に、多くの国の参加を得てアジアの平和を守ることが必要。それが私たちが生き残るための唯一の道だ」

私はそんなスピーチをして、「なぜこのことを国民に訴えないのか」と、出席していた与野党の政治家たちを叱咤した。  

米大統領選でわかったのは、もはやアメリカの民主党さえかつての姿を失い、アンティファやBLMといった左翼暴力集団に引っ張られて「先鋭化」していることだ。かつての民主党とは似て非なるものになったことに、背後で中国が関わっているとの指摘は枚挙に遑がない。

だが、唯一の同盟国であり、日米安保条約により日本に平和をもたらしてくれたアメリカの変貌にも、日本人は関心がない。自分たちの命の危機に気づかないのだ。

Getty logo

アジア版NATOの構築を

米ソ超大国が対峙した冷戦時代。ソ連が敗れ去ってロシアが誕生し、アメリカ一強時代が訪れた時、自由主義陣営は「自由と民主主義が勝利した」と疑いなく信じ、安心しきっていた。

6000万人もの犠牲者を出した第二次世界大戦の「戦後秩序」が維持されたと思い込んだのだ。だが、その戦後体制を破壊するモンスターが現われた。  

中国である。仮面をかぶり、長く衣の下に鎧を隠してきたこのモンスターは、力による現状変更への批判をものともせず、国際社会に挑戦し、同時にそれぞれの国の内部に浸透し、中国共産党による世界支配に突き進んでいる。

「アヘン戦争以来の“百年の恥辱”を晴らし、“偉大なる中華民族の復興”を果たす」という目的のために軍事力を膨張させ、周辺国に露骨な圧迫をくり返しているのだ。

「戦後秩序などという欧米の論理になぜ従わなければならないのか。われわれは、誇りを持って中華を中心とした“華夷秩序”を取り戻すのだ」という彼らの論理は恐ろしい。  

時が経てば状況は変わる。国際情勢は特にそうだ。最も大切な国民の命と領土を守るために各国は憲法を改正し、法律をつくり、叡智を結集して“来たるべき危機”に対処してきた。

『NATO2030』にもその鉄則は貫かれている。日本と同じ敗戦国であるドイツは戦後、憲法を六十三回も改正し、隣のフランスも、すでに27回も改正している。  

しかし、自分の命を米国に丸投げしてきた日本では、国際情勢の激変を前にしても、憲法を改正する気運さえ感じられない。いや、国民が憲法改正の意思を表示することを許されたことさえ“皆無”なのである。  

冷戦下では、ただアメリカに寄りかかり、日米安保条約に頼っていれば、なんとか命は守れた。私自身も、憲法改正の必要性を感じてはいなかった。

だが激変する世界情勢がその“常識”を一変させた。アメリカ自体が中国の掌中に入るかもしれない時に、これまでの防衛策だけでは、とても「足りなくなっている」のは明らかなのだ。  

日本は国民的議論のもとに憲法改正で集団的自衛権を獲得し、アジア版NATOを構築しなければならない。抑止力によって中国の“力による現状変更”を止めなければならないのである。いでよ、救国の政治家──。

(初出:月刊『Hanada』2021年2月号)

関連する投稿


「103万円の壁」、自民党は国民民主党を上回る内容を提示すべき|和田政宗

「103万円の壁」、自民党は国民民主党を上回る内容を提示すべき|和田政宗

衆院選で与党が過半数を割り込んだことによって、常任委員長ポストは、衆院選前の「与党15、野党2」から「与党10、野党7」と大きく変化した――。このような厳しい状況のなか、自民党はいま何をすべきなのか。(写真提供/産経新聞社)


我が党はなぜ大敗したのか|和田政宗

我が党はなぜ大敗したのか|和田政宗

衆院選が終わった。自民党は過半数を割る大敗で191議席となった。公明党も24議席となり連立与党でも215議席、与党系無所属議員を加えても221議席で、過半数の233議席に12議席も及ばなかった――。


衆院解散、総選挙での鍵は「アベノミクス」の継承|和田政宗

衆院解散、総選挙での鍵は「アベノミクス」の継承|和田政宗

「石破首相は総裁選やこれまで言ってきたことを翻した」と批判する声もあるなか、本日9日に衆院が解散された。自民党は総選挙で何を訴えるべきなのか。「アベノミクス」の完成こそが経済発展への正しい道である――。


石破新総裁がなぜ党員票で強かったのか|和田政宗

石破新総裁がなぜ党員票で強かったのか|和田政宗

9月27日、自民党新総裁に石破茂元幹事長が選出された。決選投票で高市早苗氏はなぜ逆転されたのか。小泉進次郎氏はなぜ党員票で「惨敗」したのか。石破新総裁〝誕生〟の舞台裏から、今後の展望までを記す。


青山繁晴さんの推薦人確保、あと「もう一息」だった|和田政宗

青山繁晴さんの推薦人確保、あと「もう一息」だった|和田政宗

8月23日、青山繁晴さんは総裁選に向けた記者会見を行った。最初に立候補を表明した小林鷹之さんに次ぐ2番目の表明だったが、想定外のことが起きた。NHKなど主要メディアのいくつかが、立候補表明者として青山さんを扱わなかったのである――。(サムネイルは「青山繁晴チャンネル・ぼくらの国会」より)


最新の投稿


【今週のサンモニ】改めて、五年前のコロナ報道はひどすぎた|藤原かずえ

【今週のサンモニ】改めて、五年前のコロナ報道はひどすぎた|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【今週のサンモニ】兵庫県知事選はメディア環境の大きな転換点か|藤原かずえ

【今週のサンモニ】兵庫県知事選はメディア環境の大きな転換点か|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


なべやかん遺産|「ゴジラフェス」

なべやかん遺産|「ゴジラフェス」

芸人にして、日本屈指のコレクターでもある、なべやかん。 そのマニアックなコレクションを紹介する月刊『Hanada』の好評連載「なべやかん遺産」がますますパワーアップして「Hanadaプラス」にお引越し! 今回は「ゴジラフェス」!


【読書亡羊】闇に紛れるその姿を見たことがあるか  増田隆一『ハクビシンの不思議』(東京大学出版会)

【読書亡羊】闇に紛れるその姿を見たことがあるか 増田隆一『ハクビシンの不思議』(東京大学出版会)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


「103万円の壁」、自民党は国民民主党を上回る内容を提示すべき|和田政宗

「103万円の壁」、自民党は国民民主党を上回る内容を提示すべき|和田政宗

衆院選で与党が過半数を割り込んだことによって、常任委員長ポストは、衆院選前の「与党15、野党2」から「与党10、野党7」と大きく変化した――。このような厳しい状況のなか、自民党はいま何をすべきなのか。(写真提供/産経新聞社)