王毅外相の無礼な発言
中華人民共和国(以下「中国」)の王毅国務委員兼外交部長(以下「外相」)が訪日(2020年11月24~25日)、翌24日、茂木外相との会談後の共同記者発表で、尖閣諸島をめぐる茂木外相の発言を受けて、こう発言した。
「ここで一つの事実を紹介したいと思います。この間、一部の真相をよく知らない日本の漁船が絶え間なく、釣魚島の周辺の敏感な水域に入っています。これに対して中国側としては、やむを得ず必要な反応をしなければなりません。これが一つの基本的な状況です」
日本国内の正式な記者会見で、日本固有の領土である魚釣島をあえて中国名で呼び、一方的に中国の領有権を主張しながら、加えて「われわれの立場は明確です。引き続き自国の主権を守っていく」と言い放った。
終始、笑みを絶やさず、柔和な表情を浮かべていた茂木外相の横で、対照的に鉄面皮のごとく言い放った。なんたる傲岸不遜。まさに厚顔無恥、盗っ人猛々しい。無礼千万きわまる。
あえて志位和夫日本共産党委員長の批判を借りよう。
「これは非常に重大な発言だと、許しがたい発言だと、暴言だと思う。結局、日本側の責任にしているわけだ。しかし、尖閣諸島周辺の緊張と事態の複雑化の最大の原因がどこにあるかといえば、日本が実効支配している領土、領域に対して力ずくで現状変更しようとしている中国側にある。中国側の覇権主義的な行動が、一番の問題だ」
おっしゃるとおり。私は拙著『そして誰もマスコミを信じなくなった共産党化する日本のメディア』(小社刊)などを通じ、日本共産党を厳しく批判してきたが、この日の志位委員長の発言は高く評価したい。
志位委員長の鋭い批判の刃は、隣で笑みを絶やさなかった茂木外相にも及んだ。
「ここで重大なのは、茂木氏が共同記者発表の場にいたわけでしょう。それを聞いていながら、王氏のこうした発言に何らの反論もしなければ、批判もしない、そういう対応をした。そうなると、中国側の不当で一方的な主張だけが残る事態になる。これはだらしがない態度だ。きわめてだらしがない」
さすがに今回は、自民党からも日本政府の対応への「不満」が噴出した。11月26日の党外交部会と外交調査会の合同会議で、出席者から「その場で反論すべきだったのではないか」との声や「中国の主張を黙認していることになる。弱腰だ」などの批判が相次いだ(朝日新聞・安倍龍太郎記者)。
自民党側の説明によると、この日の合同会議で外務省幹部は「共同記者発表なのでルールとしては反論する場ではなかった」と説明。尖閣をめぐって「日本側としては一歩も譲っていない」と語ったという(同前)。
なぜその場で言わないのか
与野党の批判もあり、外務省の吉田朋之外務報道官が翌25日、茂木外相は王毅外相に「強い懸念」を伝えたと公表した。一夜明けてから、文字どおり、より「強い」発言をしていたと補足した格好である。
開き直るよりはマシだが、翌日に補足するくらいなら、なぜ茂木外相が会見場で「強い懸念」を発信しなかったのか。
さらに、茂木外相は11月27日の参院本会議で、尖閣諸島をめぐる王毅外相の暴言を「中国独自の立場に基づくもので全く受け入れられない」と批判した。ならば、なぜその場ですぐ、そう言わなかったのか。
茂木外相は「日中外相会談で、中国公船による領海侵入や接続水域での航行、日本漁船への接近事案などを取り上げ、王氏に行動をやめるよう申し入れた」とも明かしたが、ならば、なぜ外務省の公式サイトに、そう明記していないのか。
外交とは、文字どおり外との交わりであり、対外的な活動である。持論を述べれば、「実際どうだったか」より、「相手や世界からどう見えるか」のほうが重要である。茂木外相はじめ外務省の釈明は子供じみている。聞いていて恥ずかしい。
王毅外相の暴言は、共同記者会見の場だけではなかった。前日の会見で「一部の真相が分かっていない日本漁船」と表現していた尖閣諸島周辺の日本漁船を、翌日の菅総理との会談後、記者団に向かって「偽装漁船」と言い放った。公共放送(NHK)の「解説」を借りよう。
「これは『本当に日本の漁船かどうか疑わしい』と主張したとも言えますし、日本の主権を侵害する一方的な主張です。日本の立場としては到底容認できるものではありません」(11月27日放送・BS1「国際報道2020」・岩田明子解説委員)
おっしゃるとおり。だが、そう総理官邸で咎める者もなく、王毅外相は右の暴言を残して悠々と韓国へと飛び立った。
王毅外相の暴言は、なんと帰国後も続いた。11月30日の「東京─北京フォーラム」(言論NPOなど主催)で王毅外相は、最近の世論調査で中国に悪い印象を抱く日本人が増えた結果を踏まえ、「日本社会の中国認識には偏りと問題があるようだ」と一方的に主張。中国政府による貧困対策など「生き生きとした事実を客観的に報道するべきだ」と、日本の報道にも注文をつけた(12月4日付朝日朝刊)。