前身の憲法調査会と異なり、憲法審査会には憲法改正原案の提出という重大な責務がある。だからこそ衆参両院の憲法審査会規程には「議事は、出席議員の過半数でこれを決する」と明記されている。また、委員の数も各会派の所属議員の比率により割り当てられている。
であれば、国民投票法改正の審議はすでに尽くされており、後は採決を待つだけだ。ところが、自民党は採決できない理由をいろいろ挙げて、言い訳に終始してきた。
曰く、もし「強行採決」を行えば、他の重要法案の審議が全てストップしてしまうと。つまり、他の法案を人質にとられているため、採決に踏み切れないというわけである。しかし、憲法改正を党是とする自民党にとって、国民投票法の改正よりも優先度の高い法案がどれだけあるというのか。毎回同じような言い訳を聞かされると、このように言いたくなる。
改正できないもう一つの理由は、「与野党の合意」がないということのようだ。もちろん、合意できればそれに越したことはない。しかし、審査会の開催そのものに反対する共産党や、共産党の顔色ばかり窺う立憲民主党との合意など望むべくもない。自民党はいつまで幻想を追い続けるつもりか。
第三の言い訳は、「強行採決」を行った場合、国民の猛反発を受け、憲法改正が国民投票で否決される恐れがある、ということだろう。しかし、審査会規程に従って粛々と採決するのがなぜ「強行採決」になるのか。それに、今問われているのは国民投票法の改正であって、憲法改正が国民投票に掛けられるのは先の話だ。なぜ今から恐れる必要があるのか。
12月1日、自民、立憲民主両党の幹事長らが会談し、来年の通常国会で国民投票法改正案を採決することが事実上合意された。そうなれば、次はいよいよ改憲原案の作成だ。まさに正念場の到来であり、今度こそ自民党が真骨頂を示す時だ。(2020.12.07 国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)
著者略歴
国基研理事・国士舘大学特任教授。1946年静岡県生まれ。京都大学大学院法学研究科修士課程修了。愛媛大学法文学部教授、日本大学法学部教授。国士舘大学大学院客員教授などを歴任。法学博士。比較憲法学会副理事長、憲法学会常務理事、『産経新聞』「正論」執筆メンバー。著書に『憲法の常識 常識の憲法』、『憲法と日本の再生』、『靖国と憲法』、『憲法と政教分離』など多数。