ボルトン回顧録に見る米朝関係|島田洋一

ボルトン回顧録に見る米朝関係|島田洋一

話題のボルトン回顧録で明らかとなった米朝交渉の実態と日本への警鐘


トランプ大統領再選に向けて活動している米保守派が、ボルトン前大統領補佐官(国家安全保障担当)の回顧録を「裏切り」と強く批判するのはよく分かる。リベラル派が大統領に否定的な記述のみを取り上げてニュースにしていることの裏返しと言える。

しかし、この回顧録の積極的意義も見逃すべきではないだろう。米朝交渉の実態がより明瞭になったのはその一つである。

トランプ氏の危うい発言

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2019年2月にハノイで行われた第2回米朝首脳会談は、トランプ氏が席を立つ形で物別れに終わった。北朝鮮から中途半端な案しか出てこなければ「席を立つ」(walk away)というのはトランプ氏が事前に示していた方針で、現場で決断したのもトランプ氏だった。「ハノイで『席を立つ』ことが、対中交渉でもどこでも同じ姿勢を取れると世界に明示することになるという正しい洞察を彼は示した」とボルトン氏も評価している。

北朝鮮の金正恩委員長は、定義が明確でない「寧辺の核施設の廃棄」と引き換えに事実上全ての制裁を解除するという、ボルトン氏から見れば論外の案を米側にのませようとした。会談の終盤、危うい場面があった。トランプ氏が金正恩氏に対し、追加提案はないのか、例えば制裁の完全解除ではなく何%かの解除とか、と尋ねたのである。「疑いもなく、これは会談において最悪の瞬間だった」とボルトン氏は記述する。金正恩氏が何か譲歩案を示したら、トランプ氏はのんでしまったかもしれない。しかし幸い、金正恩氏は新提案を示さなかった。

ボルトン氏の非核化構想は明確である。まず北朝鮮に核関連の申告をさせ、米側の情報と突き合わせて非核化対象を特定する。対象の解体・搬出作業は、リビアの例に照らし6~9か月で完了する。その後で制裁を解除するというものである(いわゆるリビア・モデル)。

ボルトン氏は、韓国の文在寅政権を終始侮蔑的に描く一方、安倍晋三政権の対北姿勢は高く評価している。

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