緊急時における例外的な国家権力の行使や人権・私権の制限を、憲法の根拠規定なしにすべて法律で行うことは、憲法の蹂躙につながる。憲法に緊急事態条項を設けることに反対する人々は、一方で「憲法は権力の暴走を防ぐもの」と言いながら、他方では憲法を無視し、法律でもって国家権力の行使拡大を認めてしまおうとする。その矛盾に気がつかないのか。これこそ、「立憲主義」の否定ではないか。
法律万能主義は、反対派が引き合いに出して批判する戦前の国家総動員法体制の二の舞いになるのではないか。(2020.05.07 国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)
著者略歴
国基研理事・国士舘大学特任教授。1946年静岡県生まれ。京都大学大学院法学研究科修士課程修了。愛媛大学法文学部教授、日本大学法学部教授。国士舘大学大学院客員教授などを歴任。法学博士。比較憲法学会副理事長、憲法学会常務理事、『産経新聞』「正論」執筆メンバー。著書に『憲法の常識 常識の憲法』、『憲法と日本の再生』、『靖国と憲法』、『憲法と政教分離』など多数。