国内感染者が1人も出ていない時点で「法定感染症」に
対応は迅速だった。
昨年12月31日に、中国・武漢市衛生健康委員会が「原因不明の肺炎の症例」に関する発表を行うと、衛生福利部(厚生労働省)が即日に注意喚起を出し、武漢からの帰国便に対する検疫官の機内立ち入り検査、空港等での入国時の検疫強化を実行した。
ちょうど日本ではカルロス・ゴーンの逃亡が騒がれた頃で、筆者は台湾政府の反応を見て、武漢肺炎の深刻さを知った。日本の厚労省が注意喚起を行ったのは、6日後の1月6日だった。
台湾は国内で感染者が1人も出ていない1月15日の時点で、「法定感染症」に定めている(日本の「指定感染症」の閣議決定は1月28日)。さらに、米国と同じく重大な感染症に対応するための衛生福利部疾病管制署(CDC)も整備されており、1月20日には「厳重特殊伝染性肺炎中央流行疫情指揮中心」(以下、指揮センター)を正式に立ち上げている(日本の対策本部立ち上げは1月30日)。
しかも「法定」の根拠法である「伝染病防治法(対策法)」では、各官庁に強い権限が認められている。以下の対策は、主に同法に基づくものだ。
中国人の全面入国禁止措置
台湾政府は早い段階からヒトからヒトへの感染は排除できないとして、武漢地区への危険レベルを引き上げた。WHO(世界保健機関)の情報を鵜みにして、しばらくの間は「持続的なヒトからヒトへの感染の明らかな証拠はない」としていた日本の厚労省とは明らかに異なる。
1月24日、台湾の指揮センターは他の省庁と協力して、「マスクの輸出禁止」をいち早く実施。マスクが不足し始めた民間情報をキャッチしての素早い対策で、「高値転売などへの処罰」 「政府備蓄マスクの放出」 「政府買い取り保証」なども日本政府より1カ月以上も早い対応だった。
2月6日からは国内で生産されるマスクをすべて政府が買い上げ、実名制で配給した。1人当たり週二枚の配給だが、ICチップ入りの健康保険カードで認証するため、国民のほか居留資格がある外国人も利用可能だ。3月12日からは「マスク実名制2・0」と題して、国民認証が必要なスマホアプリを使い、一定の枚数をネットで注文し、コンビニなどで受け取れるようにした。
中国からの入国制限も早かった。1月19日には、中国渡航者で肺炎の症状があれば、国籍に関係なく隔離を開始。1月26日には、中国人の訪台制限を強化して武漢市からの入国を禁止し、その後も対象地域を次々に拡大して、2月6日には中国人の全面入国禁止措置を講じた。