中小企業社長は全員逮捕?
5年間で約100億円の役員報酬を受けるよう手配していながら、その半分しか有価証券報告書に記載していなかったとして日産自動車元会長のカルロス・ゴーン氏が逮捕されました。
報酬の過少申告の是非については、専門家の間でも有罪になるか無罪になるか意見が別れているところなので、ここでは論じません。
私はアメリカの会社に勤めているとき、高額報酬に関しては違和感を覚えていました。ゴールドマン・サックスは私が入社した時は非上場の会社。役員の報酬はそれなりでしたが、上場してからさらに高騰したのです。欧州はアメリカほど役員の高額報酬に肯定的ではなく、私もどちらかと言えば欧州的な考え方で、あまりいいとは思いません。
ですが、ゴーン氏の逮捕にはいくつかの違和感を覚えます。
まず、私が非常に違和感を覚えるのは、ゴーン氏が経費を「私的に使ったこと」が逮捕の理由の1つとされていることです。
ゴーン氏はリゾート地など複数の私的な住居購入費用に日産の投資資金を流用したり、私的な投資で発生した損失を日産に付け替えたりしていました。また、業務実態がないゴーン氏の姉とアドバイザー業務契約を結び、日産が毎年10万ドルを支出していたほか、結婚式や家族旅行の費用を日産が負担していた疑いが出ており、日本のマスコミは「けしからん」「背信行為だ」と猛烈に批判しています。
もちろん、おっしゃるとおりですが、経費の私的乱用がダメだというなら、約360万人いる日本の中小企業の社長はほとんど逮捕されなくてはいけなくなります。
私の知る限り、日本は「公私混同大国」です。大企業はそれほどでもなくなりましたが、ゴーン氏と同じようなことをしている中小企業のトップを私は大勢知っています。
茶室建設も「経費」
まったく会社の仕事と関係していないのに、社長の父親を会長、会長の母親を顧問にして、家を提供。家賃を経費で落とすだけでなく、「掃除代」としておこづかいまであげている。お茶が趣味なので、茶室をつくって、その経費を会社に回した人もいます。
会食もそうです。厳密に言えば、仕事とは関係のない、「人脈づくり」と称した会食を経費として落としている人なんてざらでしょう。
小さいことでは、会社のコピー機。中小企業であれば、仕事とは関係のない私的なことであっても、印刷してしまう。それが罪だという意識すらありません。経営者が「俺の会社だから」と言って、公私混同しているのは、ある意味、日本の文化ではないでしょうか。
「国税を払うのはバカバカしい。経費で落とせ」
こういう考え方がいまだに蔓延していることと、生産性が低い中小企業が多いことは、無関係ではないでしょう。
私がゴールドマン・サックスにいた時は、経費の使い方については厳しく、私的に使うことなんてありえませんでした。
たとえば、誰かと会食するまえに「誰とどんなことを話すのか」「いくらの売り上げが期待できるか」「最近の売り上げはどうなっているか」まで部長から追及されます。会社のコピー機も、私的なことには絶対使わせないし、会社の電話、メールであっても、友人に連絡するなど私的なことには使ってはいけませんでした。
頻繁に同じお客さんと話していることがわかると、上司の命令で「なぜこの人とそんなに話しているのか」「その分だけ会社の売り上げに貢献はあるのか」と私が部下を追及することもありました。それはなにも社員だけではなく上の役職の社員も同じでした。
私が来日した1990年、日本の大企業はかなり経費の使い方が荒かったのですが、いまは厳しくなっているようです。しかし、大企業の上層部と中小企業の公私混同については、昔とそれほど変わっていないように思います。にもかかわらず、ゴーン氏を「公私混同だ」と批判していることに矛盾を感じるのです。