潔さに欠ける行為
もうひとつ違和感を覚えるのが、日産がいきなり検察に持ち込んだことです。
検察は内部通報をうけ、数カ月間にわたり内部調査を行ってきたと説明。特捜部の捜査にも全面的に協力してきたといいます。
まず、問題があれば社長に直接、問題を指摘したり、役員会議で指摘したりするのが筋でしょう。
それでも改善しなければ――あるいは社長が強権的で恐ろしい人物ならば――マスコミに告発するというのが日本でよくあるパターンでしょう。ところが今回は、そういったマスコミへのリークもなく、いきなり検察に持ち込んでいます。
そもそも、90年代の後半、日産は2兆円あまりの有利子債務を抱え倒産寸前の経営状態になりました。トヨタなどに助けを求めましたが、ことごとく断られ、最後手を差し伸べたのがルノーだった。ルノーはリスクを覚悟で、6430億円を出資するとともに、ゴーン氏は大胆なリストラなどを敢行して、日産はV字回復を果たしました。
日産にとってルノー、ゴーン氏は恩人といっても過言ではありません。経営が立ち直って、いまはルノーよりも業績がよくなったといっても、恩人である以上、誠意を持ってゴーン氏とぶつかり合うべきでした。
日産は数千億円を銀行から借りたではなくて、会社を存続させるために身売り同然のことをし、ルノーに大変な経営決断とリスクを強いました。潜在能力はあったとはいえ、きちんと持ち直すかどうか確実ではありませんでした。ゴーン氏の貢献もあって回復したわけですから、力関係を変えたいならば、きちんと対価を払い、誠意を持って対応するべきでしょう。
影でこそこそ社長を追い出すよう画策するようなマネは日本人的な潔さから、かけ離れた行為です。亀井静香氏はAERAdot.のインタビューで、今回の件についてこう喝破しています。
「(経営陣は)『日本男児として恥を知れ』と言いたい」
仏政府介入説は陰謀論
追い出したい理由に関して、世間で言われているのは、ルノーからガバナンスを取り戻すためのクーデター説です。
マスコミによると日産はルノーの筆頭株主であるフランス政府のアライアンスへの介入を懸念。フランス政府が自国の経済回復や雇用確保に向けて、ルノーと日産の経営統合を求めており、フランス政府は2018年2月、ゴーン氏がルノーのCEOとしての任期を2022年まで延長するのを認める代わりに、日産とルノーの経営統合を実現するという「密約」をゴーン氏と交わしたと言われています。
私からすれば、日本ではよくある、根拠のない陰謀論にしか思えません。いくらフランス政府がルノーの株を持っているといっても、民間企業の経営戦略にそこまで踏み込むことは、絶対にあり得えない。ゴールドマン・サックスが住友銀行に出資したときも、「アメリカ政府が日本の銀行を乗っ取ろうとしている」「出資することをアメリカ政府がゴールドマン・サックスに命じている」とマスコミで報道されました。
不良債権問題の最終処理も、アメリカ政府が日本経済を弱体化させるためにゴールドマン・サックスにやらせたと、今でも言う人がいます。
私はその2つの案件に深く関わっていたので、断言できますが、その時、アメリカ政府の命令など一切ありませんでした。そもそも、命令されたと言われた時期よりずっと前から検討していました。