「公私混同大国」日本は ゴーンを責められるか|デービッド・アトキンソン

「公私混同大国」日本は ゴーンを責められるか|デービッド・アトキンソン

ゴーン氏の逮捕にはいくつかの違和感を覚えます。まず、私が非常に違和感を覚えるのは、ゴーン氏が経費を「私的に使ったこと」が逮捕の理由の1つとされていることです。


潔さに欠ける行為

もうひとつ違和感を覚えるのが、日産がいきなり検察に持ち込んだことです。


検察は内部通報をうけ、数カ月間にわたり内部調査を行ってきたと説明。特捜部の捜査にも全面的に協力してきたといいます。


まず、問題があれば社長に直接、問題を指摘したり、役員会議で指摘したりするのが筋でしょう。


それでも改善しなければ――あるいは社長が強権的で恐ろしい人物ならば――マスコミに告発するというのが日本でよくあるパターンでしょう。ところが今回は、そういったマスコミへのリークもなく、いきなり検察に持ち込んでいます。


そもそも、90年代の後半、日産は2兆円あまりの有利子債務を抱え倒産寸前の経営状態になりました。トヨタなどに助けを求めましたが、ことごとく断られ、最後手を差し伸べたのがルノーだった。ルノーはリスクを覚悟で、6430億円を出資するとともに、ゴーン氏は大胆なリストラなどを敢行して、日産はV字回復を果たしました。


日産にとってルノー、ゴーン氏は恩人といっても過言ではありません。経営が立ち直って、いまはルノーよりも業績がよくなったといっても、恩人である以上、誠意を持ってゴーン氏とぶつかり合うべきでした。


日産は数千億円を銀行から借りたではなくて、会社を存続させるために身売り同然のことをし、ルノーに大変な経営決断とリスクを強いました。潜在能力はあったとはいえ、きちんと持ち直すかどうか確実ではありませんでした。ゴーン氏の貢献もあって回復したわけですから、力関係を変えたいならば、きちんと対価を払い、誠意を持って対応するべきでしょう。


影でこそこそ社長を追い出すよう画策するようなマネは日本人的な潔さから、かけ離れた行為です。亀井静香氏はAERAdot.のインタビューで、今回の件についてこう喝破しています。


「(経営陣は)『日本男児として恥を知れ』と言いたい」

カルロス・ゴーン
Getty logo

仏政府介入説は陰謀論

追い出したい理由に関して、世間で言われているのは、ルノーからガバナンスを取り戻すためのクーデター説です。


マスコミによると日産はルノーの筆頭株主であるフランス政府のアライアンスへの介入を懸念。フランス政府が自国の経済回復や雇用確保に向けて、ルノーと日産の経営統合を求めており、フランス政府は2018年2月、ゴーン氏がルノーのCEOとしての任期を2022年まで延長するのを認める代わりに、日産とルノーの経営統合を実現するという「密約」をゴーン氏と交わしたと言われています。


私からすれば、日本ではよくある、根拠のない陰謀論にしか思えません。いくらフランス政府がルノーの株を持っているといっても、民間企業の経営戦略にそこまで踏み込むことは、絶対にあり得えない。ゴールドマン・サックスが住友銀行に出資したときも、「アメリカ政府が日本の銀行を乗っ取ろうとしている」「出資することをアメリカ政府がゴールドマン・サックスに命じている」とマスコミで報道されました。


不良債権問題の最終処理も、アメリカ政府が日本経済を弱体化させるためにゴールドマン・サックスにやらせたと、今でも言う人がいます。


私はその2つの案件に深く関わっていたので、断言できますが、その時、アメリカ政府の命令など一切ありませんでした。そもそも、命令されたと言われた時期よりずっと前から検討していました。

関連する投稿


インボイス反対派を完全論破!|デービッド・アトキンソン

インボイス反対派を完全論破!|デービッド・アトキンソン

10月から開始されるインボイス制度。反対論が喧しいが、なぜ、子供からお年寄りまで払っている消費税を、売上1000万円以下の事業者というだけで、免除されるのか。 まったく道理が通らない!


中国の金融危機でリーマン級災厄の恐れ|田村秀男

中国の金融危機でリーマン級災厄の恐れ|田村秀男

国内金融規模をドル換算すると、2022年に38兆ドルの中国は米国の21兆ドルを圧倒する。そんな「金融超大国」の波乱は米国をはじめ世界に及ぶ。


親権制度はイギリスを見習え!|デービッド・アトキンソン

親権制度はイギリスを見習え!|デービッド・アトキンソン

後を絶たない実子誘拐の被害。どうすれば、止められるのか。 そのヒントは、イギリスの親権制度にあった!


米シンクタンクが安倍元首相を「日本の歴史上最も偉大な首相、世界のリーダー」と大激賞!|岡部伸

米シンクタンクが安倍元首相を「日本の歴史上最も偉大な首相、世界のリーダー」と大激賞!|岡部伸

米シンクタンク「ボストン・グローバル・フォーラム」が、安倍晋三元首相を追悼する国際会議を開催、会議を主宰するマイケル・デュカキス元米マサチューセッツ州知事は「世界を平和と安定に導くリーダーシップを発揮した安倍氏を失ったことは大変残念だ」と悼んだ。


インドは次の世界大国になるか|ブラーマ チェラニー

インドは次の世界大国になるか|ブラーマ チェラニー

世界最大の民主主義国インドは最近、英国を抜いて世界5位の経済大国になった。今、インドは人口で中国を抜き去ろうとしている。中国が世界一の人口大国でなくなるのは、少なくとも3世紀ぶりとなる。


最新の投稿


【川勝劇場終幕】川勝平太とは何者だったのか|小林一哉

【川勝劇場終幕】川勝平太とは何者だったのか|小林一哉

川勝知事が辞任し、突如、終幕を迎えた川勝劇場。 知事の功績ゼロの川勝氏が、静岡に残した「負の遺産」――。


【今週のサンモニ】「サンモニ」の”恐喝”方法|藤原かずえ

【今週のサンモニ】「サンモニ」の”恐喝”方法|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


「子供1人生んだら1000万円」は、とても安い投資だ!|和田政宗

「子供1人生んだら1000万円」は、とても安い投資だ!|和田政宗

チマチマした少子化対策では、我が国の人口は将来半減する。1子あたり1000万円給付といった思い切った多子化政策を実現し、最低でも8000万人台の人口規模を維持せよ!(サムネイルは首相官邸HPより)


【読書亡羊】出会い系アプリの利用データが中国の諜報活動を有利にする理由とは  『トラフィッキング・データ――デジタル主権をめぐる米中の攻防』(日本経済新聞出版)

【読書亡羊】出会い系アプリの利用データが中国の諜報活動を有利にする理由とは 『トラフィッキング・データ――デジタル主権をめぐる米中の攻防』(日本経済新聞出版)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【今週のサンモニ】岸田総理訪米を巡るアクロバティックな論点逃避|藤原かずえ

【今週のサンモニ】岸田総理訪米を巡るアクロバティックな論点逃避|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。