御厨 これまでの政治家の要件をほとんど外している。
芹川 こんな首相、いましたか。
御厨 いないですよ。だからこれは、令和政治の一番のポイントになる。
そして、女性初の総理が保守派から出てきたことの意味を分析するのだが、「リベラルな女性からすると許せない、となるが、男性からすると高市が総理というのは、安心感がある」のだという。言いづらいので皆まで言わないやり取りになっているが、要するに「人権だ、女性蔑視だ、男性は加害者性を自覚せよ、などと迫ったりしない」という意味なのだろう。
さらに、前政権の石破総理がしきりに強調していたものの達成できなかった地方創生を「日本列島を強く、豊かに」とのキャッチフレーズで塗り替え、参政党に流れかかっていた右派の支持を取り留めた。これにより政権の振り子は大きく右に振れると同時に、リベラルは壊滅状態に陥った。
高市政権を扱った章では他にも自公連立誕生秘話や、権力欲が足りなかった国民民主・玉木雄一郎代表についての言及もある。思わず笑ってしまうような「玉木評」だが、どんな評価なのかはぜひ本書でご確認いただきたい。
「腐す、腐す、腐す」
第二部は石破政権。石破前総理と御厨氏は「時事放談」で10年にわたって話を聞き続けてきただけに、その「石破評」は至極具体的で説得力がある。こちらもぜひ本書をお読みいただきたいのだが、とにかく「自分一人でしゃべりまくり、自分の論理で自分を説得し、納得しておしまい。相手が説得されているか、納得しているかには、全く興味がない」というのだ。
そして党内では大勢の塊を結集することができず、野党の議員と話しては「野党の人との方が話が合う」などと言っているのだという。これでは総理になったのは奇跡に近いが、それもこれも前政権の岸田氏が派閥を解体したからだろう。
御厨氏は「後に評価されうる部分がある」としながらも、全般としては厳しい判定を下している。地方創生大臣を辞めた後、やりたいことがなくなり安倍批判で生きてきたとの見方を芹川氏が紹介すると、御厨氏も〈何かを作るんじゃなくて、壊す……いや、壊すんじゃなくて、腐す、腐す、腐す〉と「腐す」を三度繰り返し石破氏の態度を酷評している。
そして石破氏が「安倍批判」で政権を手にしたツケが、結果として議席多数の高市政権を生むことになったのだと指摘する。にもかかわらず、総理を退任したとたんに現政権批判を展開し始めた石破氏の態度は、長く政治を観察してきた御厨・芹川両氏にも信じられないものだったらしい。
第三部の岸田政権についてもなかなかの厳しさだ。ノンシャランでオポチュニストというのが両氏の見立てである。
岸田氏は基本的にはリベラルを自負していると思うが、必要とあればタカ派的な政策にも取り組んで実現する。それはそれでこの激動の国際情勢を乗り切る上では、必要な才覚だっただろう。安保三文書、反撃能力、装備品輸出の五類型撤廃など、次々に成し遂げて行った。
筆者(梶原)も当時「リベラルで核なき世界を訴える岸田総理だから、反発が少ないのでは。これを安倍総理がやろうとしたら大変な騒ぎだっただろう」と思っていたが、やはりイメージがリベラルな政権の方が、するっと安全保障体制の強化に着手できる面があるのだろう。
これは保守派の安倍政権が、保守の匂いを醸しながらもリベラル的な政策をさほどの右からの反発もなく実転していったのと、まさに対照的なものだと言える。
第四部の菅政権については少し記述が短めで、これは2021年の両氏の前著で触れているためだという。印象的なのは「菅政権には菅官房長官がいなかった」という芹川氏のフレーズで言い表される政権の内実だ。
これは安倍元総理も、菅氏の総裁選立候補の時に言っていたフレーズで、「菅ちゃんには菅官房長官がいないから」と、自身の政権で官房長官を務めた菅氏を最大限に評価する意味がこもっていたのを想起させる。


