【読書亡羊】「道産子アメリカ人」が静かに鳴らす警鐘が聞こえるか  ジョシュア・W・ウォーカー『同盟の転機』(日本経済新聞出版)|梶原麻衣子

【読書亡羊】「道産子アメリカ人」が静かに鳴らす警鐘が聞こえるか ジョシュア・W・ウォーカー『同盟の転機』(日本経済新聞出版)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


民主主義が試練に直面し、真実が分断され、不安が膨れ上がる時代に、日本のソフトパワーは貴重なものを世界に提供する。それは希望に満ちた想像力である。

ソフトパワーはハードパワーを置き換えるものではないが、新聞の見出しが色あせた後でも、長きにわたって同盟を持続させる、人間関係を築くものである。

著者の問題意識はまさにここにある。同盟の継続のために、日本は単に首脳外交や日米の外交担当者同士の交流のみではなく、草の根の日米の人々のつながりを深め、同じ文化を楽しみ、協働するという〈より深い領域に入らなければならない〉との思いがあるのだ。

じわじわ伝わる日米同盟への危機感

戦後日本に〈われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって〉との憲法前文をもたらしたアメリカが、よもや「アメリカ・ファースト」を掲げて自国のことのみに専念することになろうとは思いもよらなかった。

こうした思いは著者も同様に抱いているようだ。声高にトランプを批判することのない静謐な筆致からは、だからこそ余計に著者が現状に対する極めて強い危機感を持っていることが伝わってくる。

「日本は閉じこもっていてはいけない!」と訴えるとともに、高市総理のリーダーシップへの期待も綴られているが、アメリカ側からの同盟強化の具体的な動きがまったく出てこないであろう状況下だけに、何か悲痛な願いにも思えるほどだ。

こうした本では異色だが、第二章では著者の「道産子アメリカ人」としての来歴をエピソードたっぷりに述べている。バスケットボール大会のために訪れた三沢基地の周辺で、米軍基地勤務の米軍人のよからぬ態度を見て、アメリカの負の側面を感じたと率直につづっている。2011年の東日本大震災発災時には米国務省にいたが、ゆかりある土地が迎えた苦難に心を痛めたという。

日本を「ふるさと」と感じ、アメリカと日本を結びつけるジャパン・ソサエティの理事長となったことを〈天職〉とする著者の警句は、静謐なだけに一層、日本人の心に響く。

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