市民が知りたいのは物事の行為者の「善悪」
膳場貴子氏:これまでになかった選挙戦が展開されました。そしてメディアとしても大きな転換点だったなと感じました。
古田大輔氏:この問題はいろいろ論点がある。パワハラはあったのか、公益通報保護法違反はないか、百条委員会の調査は適正か、公職選挙法違反があったのではないか、選挙でのソーシャルメディアの拡散と偽情報や誤情報があったのではないかなどいろいろあるが、ソーシャルメディアだけに限って見ると、私が選挙後の報道や見立てに問題があると思うのは、「マスメディアではなく偽情報が大量に拡散したソーシャルメディアを信じた熱狂的な斎藤支持者」みたいな見立ては非常に問題がある。
なぜなら、そういう見立てをしてしまうと、斎藤氏に投票した人はみんな腹が立つ。「私は騙されたのか」ということになるし、一方で投票しなかった人は「そういうことで受かったのか」と思ってしまう。これは事実関係的にもおかしいし、社会を分断する見立てだ。
おっしゃるとおり、偽情報が大量に拡散されたことを根拠に、ソーシャルメディアを信じることを否定するのは論理的ではありません。従来『サンデーモーニング』はこのような根拠でSNSを攻撃してきました。
古田大輔氏:実際何が起こっていたのか。まずナラティヴの変化。ナラティヴとは物語の語り口のことをいうが、これがあった。
どういうナラティヴかというと、「私たちが支えないといけない改革派の斎藤知事vs斎藤氏を貶めたマスメディアを含む既得権益層」みたいな対決構図が生まれた。その背景には偽情報・誤情報があった。我々もファクトチェックセンターで検証した。
ただ、実はtwitterでシェアされたものを上から順に並べて見ていくと、ほとんどは単純に「斎藤氏頑張れ」という声だった。偽情報・誤情報以上にそちらの方が拡散している。なぜそれが力をもつようになるかというと、背景としてそもそも斎藤氏への支持はそこそこ元々あったというのが一つ。
5期20年にわたる井戸県政に対する反省がある。そして元々あるマスメディア不信が背景にある。3つ目に挙げられるのが、そもそもマスメディアは選挙期間中にあまり報道してないではないかと。
例えばYouTubeのデータを見れば明らかだが、選挙が始まるまではマスメディアのYouTubeが見られている。でも選挙が始まるとマスメディアが報道を縮小させるから、あっという間にインフルエンサーとか、独立系のYouTubeアカウントが見られるようになる。
だからむしろソーシャルメディアはマスメディアによる情報の空白を埋める存在になっていることを理解しないといけない。
今回僕も分水嶺だと思ったのは、ソーシャルメディアを参考にして投票したという人が30%、テレビ・新聞を参考にしたという人がそれぞれ24%(NHK出口調査)と逆転した。これは歴史上何度もある情報の権威の交代で不可逆だ。そういったなかでマスメディアはソーシャルメディアのよいところ悪いところを理解しながら行動すべきと思う。
古田氏のおっしゃるとおりだと思いますが、やはり一次情報にあたることができるマスメディアは、SNSとは別に、事実を過不足なく報じた上で、事実の評価を一方的に行わないことが重要であると考えます。このためには、けっしてネガティヴィティ・バイアスに陥ることなく、多面的な事実の評価を怠らないことを意識することが不可欠です。
視聴者によるマスメディア不信の大きな要因は偏向報道にあります。これはXのトレンドにしばしば登場することからも明らかです。
思えば、安保法制・モリカケ桜・コロナ・統一教会・政治資金不記載といった諸事案の報道において、多くのマスメディアは強いネガティヴィティ・バイアスを発揮して、一方的に正義の味方を演じてきました。
しかしながら、市民がマスメディアに求めているのは、色がついていない多面的な情報の提供であり、それが正義であるか悪であるかを判断するのはマスメディアではなく市民です。換言すれば、市民が知りたいのは、物事の「真偽」であり、物事の行為者の「善悪」ではありません。
以上の一般論は、オールドメディアの象徴的存在ともいえる『サンデーモーニング』に当てはまります(笑)。
今回の選挙を「メディアの転換点」と考えるのであれば、番組定番の一面的なトランプ氏批判や自民党批判を封印して、事実の報道に専念することが重要と考える次第です。