実態とはかけ離れた情報の暴走
アナウンサー:出直し選挙への出馬を表明し、街頭に立った斎藤氏、当初は足を止める人もまばらでしたが、選挙戦終盤の街頭演説には大勢の支持者らが詰め掛けました。
支持者女性(VTR):一方的に責められることが何度もテレビで見ておかしいと思った。
支持者男性(VTR):インターネットやYouTubeで気づくことがあった。
アナウンサー:大きく流れを変えたのがSNSでした。なかでも影響が大きかったのが、自身のYouTubeチャンネルに多くの登録者をもつ立花孝志氏、今回の知事選に自身も立候補しながら当選を目指さず、斎藤氏のパワハラを否定する演説を繰り返し、動画を次々と投稿しました。
立花孝志氏(VTR):「斎藤氏は悪い奴」だと思い込まされているんです。
アナウンサー:こうした異例の選挙戦について専門家は…
米重克洋氏(VTR):立花さんが語る「真相」に有権者が興味を示し、それが斎藤氏の投票に繋がっていった。街頭の活動とYouTubeなどのSNSでの発信。リアルとネットが嚙み合った形で発信をしていった。
アナウンサー:実際、立花氏の発信と連動するようにSNSにも支持者の声が…。そして「パワハラはなかった」「おねだりはデマ」といった投稿が支持者らのSNSによって広く拡散されていったのです。
政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏が、当選を目指さず斎藤候補を支援するという奇抜な形で立候補し、斎藤氏への告発文に対する異なる解釈をSNSで発信すると、世論は大逆転しました。
新たな情報に接触した大衆は「自分は騙されていた」と考え、今度は逆方向に大きく振れることになります。大衆は、県政を支配してきた守旧派・オールドメディアに不当に貶められた正義の改革者として斎藤知事を認識するようになったのです。
アナウンサー:明らかに不正確な情報も拡がりました。1000万回以上閲覧されたのが公約の実現率が98.8%という投稿。実際は「一定程度達成した」「着手した(斎藤知事)」が98.8%だったのが、いつのまにか「実現した」公約が98.8%とされたようです。SNSからの情報が大きなうねりとなった今回の選挙戦、その後対立候補の陣営から刑事告訴の動きがあるなど波紋が広がっています。
よく知られているようにSNSは玉石混交であり、誤情報も多く存在します。
しかしながら、そのことをもってSNSの情報を全否定するのは論理的ではありません。重要なのは、有用な情報を取捨選択することであり、これによって【集合知 collective intelligence】を得ることです。日本のオールドメディア、特にテレビの主張はあまりにも【多様性 diversity】に乏しく【画一性 uniformity】が卓越するので、しばしば大衆は一方向にミスリードされます。
当然のことながら、物事には肯定的な部分と否定的な部分がありますが、人間はこのうち否定的な部分に注目しがちです。これを【ネガティヴィティ・バイアス negativity bias】といいます。
テレビのワイドショーは、概してショッキングな話題で視聴率を稼ぐことを至上命令とするため、否定的な部分をことさら強調して報じます。
つまり、テレビの情報自体が、既に番組制作者のネガティヴィティ・バイアスに影響を受けた情報となっています。この情報が大衆のネガティヴィティ・バイアスによってさらに増幅されて、実態とはかけ離れた情報の暴走を始めるのです。