こうした京都第一日赤の不誠実な対応は、同じ日赤の病院ながら、日赤名古屋第二病院が6月17日に記者会連を開き、研修医の誤診が原因で16歳の男子高校生を死亡させたことを発表したのと対照的だ。
会見で名古屋第二病院幹部は「何度も助けられる機会はあったのに見過ごされました」という医療現場に宛てた遺族の悲痛なメッセージを読み上げて謝罪した。
同じ日赤なのに、なぜこうも対応が違うのか。
「病院に医師を派遣している“親”の大学病院の姿勢の差だと思います。名古屋第二病院は名古屋大学の系列病院です。医療事故を隠さず公表することが患者や遺族との信頼関係の構築と医療安全の向上につながるのですが、名古屋大学病院はそれを実践していることで知られています。一方、京都府立大医大系列の京都第一日赤はずっと医療事故を隠蔽し、いまだに記者会見を拒否し、まったく説明責任を果たしていません。これは“親”に当たる京都府立医大の体質だと思います」(A氏)
事故を引き起こした脳神経外科医を京都第一日赤に派遣したのは京都府立医大の橋本教授だった。録音音声によると、橋本氏は、医療事故が報道で明るみに出る前の2021年7月26日、A氏同様、事故の連鎖を止めようとして日赤本社などに事故を通報した第一日赤第一脳神経外科の別の医師に向かって、こう言い放っている。
「いま、あなた『私たち、悪いことしてますか』と言っていたけど、いっぱいしていると思いますよ。医療的には正しいかもしれない。それは百歩譲って。でも、そんなことでは世の中、回りませんて」
「後医(こうい)は名医(筆者注・あとから診た医師の方が情報が多いため、最初に診た医師の欠点を指摘してはならないという医者の間の通説)というの、知ってる? その不文律を破っている。『医療的におかしい』って言うたらあかん。そういうことをやってはいけない。勤務医として、最もやってはいけないことをやった。勤務医の身分でやったら嫌われるだけ。医者として終わりかもしれない。医者仲間を全員敵に回す可能性がある。開業したら自由にやってもらっていい」
山下さんの長男は「私たち家族は父に何が起きていたかを知りたいと思っています。当初は医療事故をまったく疑っておらず、がんの症状悪化が主な死亡原因との説明を信じていました。学閥や病院の自己保身で真実が隠されたり、救命が後回しになっている現実を患者ファーストに改善していただければと願っています」と語っている。
遺族の思いは伝わるのか。
ジャーナリスト。1956年生まれ。早稲田大学卒業。講談社『週刊現代』記者を経てフリー。『週刊現代』で、当時の小沢一郎民主党代表の不動産疑惑(のちに東京地検が政治資金規正法違反で摘発)をスクープ。著書に『成年後見制度の闇』(飛鳥新社・宮内康二氏との共著)など。