国連事務総長の正論
今次ガザ紛争を巡っては、内外で多くの論争が交わされている。それらを大まかに括れば、3つある。
①イスラエルの反撃をどこまで容認するか、すなわち、ハマスによる武装攻撃の残虐性を突くイスラエルの自衛権発動をどこまで支持するかという視点
②より底流に横たわる根本的問題・矛盾に着眼する歴史的・長期的視点
③今次紛争が中東情勢、国際情勢全般にどう影響を与えるかという地政学的視点
これらのうち、②に関連して10月24日、グテーレス国連事務総長は、安全保障理事会でこう注意喚起した。
「(ハマスによるイスラエルへの攻撃は)何もない状況で急に起こったわけではない。パレスチナの人々は56年間、息のつまる占領下に置かれてきた。自分たちの土地を入植によって少しずつ失い、暴力に苦しんできた。経済は抑圧されてきた。人々は家を追われ、破壊されてきた。そうした苦境を政治的に解決することへの希望は消えつつある」
「パレスチナの人々が怒っているからといって、ハマスによるおぞましい襲撃が正当化されるわけではない。また、おぞましい襲撃を受けたからといって、パレスチナの人々に対する集団的懲罰が正当化されるわけではない」
この事務総長の指摘は、至極真っ当なものであったが、これを聞いたイスラエルの外相は激高しながら、テロリストたるハマスに理解を示すことは言語道断だ、と声を荒げて反論。加えて、同国の外交官は各所において、自分たちの自衛権を支持しない国はテロリストの側に立つに等しい旨、繰り返している。
イスラエル当局が武力攻撃直後、極度の興奮状態にあったことを想起すれば、こうした発言になることは致し方ない面があるとは思うが、危うさを感じさせた。
ガザ紛争の根っこ
衝撃的なハマスの攻撃に直面し、米国はイスラエルに寄り添い、同国の防衛を支援する旨を宣明。英国、フランス、ドイツ、イタリアも米国とともに、(ハマスを非難しつつ)イスラエルの防衛努力を断固支持する旨の声明を発出した。
ただ、私はそのトーンには、早晩現実となるであろうイスラエルの過剰な武力行使に予めお墨付きを与える面があり、のめり込みすぎではないかとの危惧を持った。
やはりというべきか、11月に入ると、イスラエルの武力行使は明らかに度を越えたものになった。すでに、グテーレス事務総長は10月24日の時点で、イスラエルによる空爆と封鎖が続くガザ地区では「国際人道法違反」が見られるとの認識を示していたが、11月6日にはさらに踏み込み、「ガザは子供たちの墓場となりつつある。
私たちが目にしているのは明らかな国際人道法違反であり、『人道的停戦』が直ちに必要だ」と述べた。
かかる流れのなかで、さすがの米国もイスラエルに人道目的の一時的戦闘停止を求めるなど、ポジションをシフトし、バイデン氏とイスラエルのネタニエフ首相の間の綱引きは、厳しさを増している。なお、バイデン氏はハマスとプーチン氏を同列に論じて見せたが、私はこれには異論がある(後述)。
このガザ紛争の根っこには「ハマスはけしからん」、あるいは「どっちもどっちだ」ということで議論を片付ける訳にはゆかない、迷路のように複雑で入り組んだ構造が横たわっている。
そこで本稿では、先述の視座②に絞って、私の見方をお示しする。
もとより、非人道的で悲惨な状況が続いている以上、①についてもじっくり論じるべきであろう。ただ、冷めた言い方をするなら、①の状況は、やがて一旦は片付く(政治的決着が不可欠)。だが、だからと言って、より根源的な②の問題が解消するわけではない。
②という構造的問題が残る限り、将来、第二、第三のハマスが出て来て、今回と同様の悲惨な武力紛争が繰り返されることは必至であり、その意味で、②に着眼することは①以上の重みを持つ。